海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
体のどこかが悲鳴を上げているのに、周りから「あと少しだ」と背中を押されて、引くに引けなくなったことはありませんか。
そんな場面で口にされる「push through」を、『モダンファミリー』シーズン10第1話の前半、親子ペアで早食い大会に参加するフィルとルークのやり取りから、一緒に見ていきましょう。
「push through」の意味とニュアンス
push through
意味:(痛みや困難、気の進まなさを)押して進む、やり抜く
push through は、つらさや抵抗を感じながらも立ち止まらず、そのまま先へ進む姿勢を表す表現です。push は「押す」、through は「通り抜けて」という意味の語で、目の前の抵抗を押しのけて向こう側へ抜けていく動きが、そのまま意味になっています。
乗り越える対象は、it のような代名詞で受けるほか、push through the pain(痛みを押して進む)のように名詞を続けて示せます。体調がすぐれない日の仕事、きついトレーニング、気が重い作業など、休みたくなる場面で「ここでやめずに最後までやり切る」ことを伝える一言です。
物理的な動きにも使えます。混み合った場所や茂みのような障害物をかき分けて進む場面でも、push through the crowd のように言えます。つらさを乗り越える意味と、人混みを抜ける意味は、どちらも「抵抗を押し分けて通り抜ける」という同じ動きの延長にあります。
push だけなら「押す」という動作で完結しますが、through が加わると、途中で止まらずに向こう側まで出ていくところまでが含まれます。つらさの真ん中で足を止めず、出口まで進み切るニュアンスは、この through が担っています。
【ここがポイント!】
- push through の核は、抵抗を押し分けて向こう側へ抜けていく動き
- 乗り越える対象は it や the pain のような目的語で示す表現
- 励ますときは命令形、やり切った報告には過去形で使える一言
『モダンファミリー』S10E01のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
親子ペアで早食い大会に参加するフィルとルークの場面です。体の違和感を訴えるルークに、フィルが励ましの言葉を返し、さらに軽口を重ねていきます。push through it がどんな流れで口にされるのかに注目です。
Luke: I felt something tear inside.
(体の中で何かが裂けた気がした。)Phil: Push through it. You’ll thank me when you start to feel the gorger’s high.
(やり抜くんだ。「大食い選手の高揚感」を味わい始めたら、俺に感謝するぞ。)— Ugh.
(うえっ。)Luke: Aah! What the hell?!
(うわっ! 何なんだよ、これ?!)Phil: Oh, is the hot dog making you angry? An angry stomach is 12% larger.
(おや、ホットドッグに腹が立ってきたか? 怒った胃は12%大きくなるんだぞ。)Modern Family Season10 Episode1 (I Love a Parade)
シーン解説と心理考察
ルークの「体の中で何かが裂けた気がした」という訴えに、フィルは苦しさの理由を聞き返さず、先へ進むよう促します。push through の後ろの it は、ルークが訴えた裂けるような感覚を受けていて、その感覚を抱えたまま進めという指示になっています。
フィルは続けて、gorger’s high(大食い選手の高揚感)が待っていると語ります。苦しさの先にご褒美があるという筋立てを示して、ルークに踏ん張る理由を差し出している形です。
続いてルークが声を上げると、フィルは「ホットドッグに腹が立ってきたか」と茶化し、怒った胃は12%大きいという理屈まで持ち出します。苦しさを訴える息子に、励ましの言葉と軽口が交互に返ってくるテンポが、このやり取りの面白いところです。真剣な励ましと冗談が同じ口から並んで出てくる様子に、フィルの調子が表れています。
ルークの訴えは「何かが裂けた気がした」という体の感覚の話で、フィルの返答はその感覚を取り除く方向ではなく、乗り越える方向に向いています。同じ場面でも、体を休めるよう勧める言葉と、押して進むよう促す言葉では、会話の行き先がまるで変わります。push through it は、後者の方向を一言で示す表現です。
『モダンファミリー』流・覚え方のコツ
混み合った通路を、肩で人をかき分けながら進んでいく様子を想像してみましょう。前から押し返される抵抗があっても、足を止めずに押し分けて、反対側へ抜けていきます。
push(押す)と through(通り抜けて)が合わさったこの動きが、そのまま「つらさを押して進む」という意味になります。ルークの「裂けた気がした」という感覚は、押し返してくる抵抗の側にあたります。
フィルの push through it は、その抵抗を押し分けて向こう側へ出ろという掛け声として響きます。ホットドッグの場面を思い出しながら、人混みをかき分ける絵を重ねておくと、意味と形が一緒に残ります。苦しい場面でも、人混みの場面でも、同じ絵で説明できます。
例文で覚える「push through」
つらさを乗り越える意味と、障害物をかき分ける意味を、3つの例文で見比べてみましょう。
I had a cold, but I pushed through and finished the presentation.
(風邪をひいていたけれど、踏ん張ってプレゼンをやり切った。)
体調不良の中で仕事を終えた報告の場面です。but のあとに pushed through を置くと、つらさがあったうえでやり切った流れが伝わります。
A: My legs are killing me.
B: Just push through it. We’re almost at the top.
(A:足が痛くてたまらないよ。)
(B:もう少しの辛抱だよ。頂上はすぐそこだから。)
登山中に励まし合う会話です。push through it と it で受ける形は、劇中のフィルの一言と同じ組み立てになっています。
She pushed through the crowd to get to the front.
(彼女は人混みをかき分けて前のほうへ出た。)
混雑した場所で動く様子を伝える場面です。つらさではなく物理的な障害物が対象でも、同じ push through が使えます。
あわせて覚えたい関連表現
power through
(力ずくで一気にやり切る、乗り切る)
push through が抵抗を感じながら前へ進む動きを描くのに対し、power through は勢いと力で一気にやり切る感じが前に出ます。
tough it out
(耐え抜く、我慢して乗り切る)
tough it out は「耐える」ことに重点があり、push through は「先へ進む」動きに重点があります。つらい状況に居続ける姿を描くか、前へ進む姿を描くかの違いです。
get through
(困難な時期などを乗り切る)
get through は無事に終えること自体を指す言い方で、push through は努力して押し進める姿勢まで含みます。
Note|後ろに続く語で形が変わる push through
push through は、後ろに何を置くかによって、同じ形でも少しずつ働きが変わります。
劇中の push through it は、it が「乗り越える対象」を受ける形です。it の代わりに the pain を置けば「痛みを押して進む」、to the end を続ければ「最後まで押し切る」という到達点まで示せます。一方、push through the crowd のように物理的な障害物を置くと、人混みをかき分けて通り抜ける意味になります。さらに、through の前に目的語を挟んだ push a plan through は、計画や提案を押し通して成立させる意味になります。例えば They pushed the proposal through despite the objections. なら、反対があっても提案を通した、という文です。
日本語の「押し通す」は、意見や要求を相手に認めさせる場面に寄った言葉です。push through は、まず「抵抗を押し分けて進む」という動きの表現で、つらさを乗り越える場面では「やり抜く」「乗り切る」のほうが近い訳になります。
フィルの push through it は、it で苦しさを受ける形で、「押し通す」ではなく「やり抜く」の側に立つ使い方です。目的語の位置を見ると、どちらの意味なのかを判別できます。
たとえば We pushed through to the end of the season. なら、シーズンの最後まで押し切ったという文になります。to のあとに到達点を置く形は、最後までやり切ったことを伝えたいときに使えます。
まとめ|押し返す苦しさと、励ましに混ざる父の軽口
push through は、つらさや抵抗を押し分けて、そのまま先へ進む姿勢を表す表現です。
体調が悪い日の仕事や、気が重い作業の最終盤など、休みたくなる場面でやり切ったことを伝えたり、誰かを励ましたりする一言として使えます。目的語に it を置けば、直前に話題になった苦しさをそのまま受けられます。
ルークの苦しい訴えに、励ましと軽口を交互に返したフィルの調子を思い出しながら、会話のレパートリーに加えてみてください。目的語の置き方まで一緒に覚えておくと、痛みにも人混みにも対応できる表現になります。


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