海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
用件があるわけでもないのに、気づけば一時間が過ぎている。そういう話し方には、英語にもちゃんと名前が付いています。
そこで登場するのが「shoot the breeze」で、とりとめのない世間話をする、という意味です。『メンタリスト』シーズン2第6話の中盤、リグズビーとチョウが留置場のジェーンのためにボスコへ掛け合いに行く場面で使われます。どのように使われているのか、一緒に見ていきましょう。
「shoot the breeze」の意味とニュアンス
shoot the breeze
意味:世間話をする、だらだらとおしゃべりする
breeze はそよ風です。shoot the breeze を直訳すると、風を撃つ。撃っても当たる的がなく、弾はただ空気の中に消えていきます。中身のない会話を、狙いのない発砲にたとえた言い方です。
批判の色は、それほど強くありません。目的も結論もないけれど、気の置けない相手と過ごす時間そのものが心地よい。そういうのんびりした温かさを含む表現です。友人との長電話や、休憩中のおしゃべりがよく似合います。
ただし、本題を前にした場面では立場が変わります。今それをしている場合ではない、という文脈に置かれた瞬間に、無駄話という意味が前に出てきます。会議の冒頭や、忙しい相手に声をかける場面で使われるときは、たいていこちらの意味です。
日本語にすると、世間話・雑談・油を売る、あたりが近い訳語になります。ただし油を売るには怠けているという非難が含まれるのに対し、この表現は必ずしもそうではありません。訳し分けるときは、前後の文脈で判断することになります。
過去形は shot the breeze です。shoot が不規則変化する動詞なので、口に出して形を確かめておくと安心して使えます。
【ここがポイント!】
- 直訳は「そよ風を撃つ」。当たる的のない発砲が中身のない会話の比喩
- 基本はのんびりした温かい語感。批判の色は薄い
- 本題の前に置かれると、無駄話という意味に傾く
『メンタリスト』S02E06のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
盗聴が発覚して留置場に入れられたジェーンのため、リグズビーとチョウがボスコのもとへ掛け合いに行きます。相手は自分たちの上司ではなく、しかもジェーンを送り込んだ張本人です。切り出し方に慎重さが要る場面で、リグズビーは前置きはしませんという前置きから入りました。
Rigsby: Agent Bosco, a word?
(ボスコ捜査官、少しいいですか)Bosco: Sure.
(ああ)Rigsby: I know you’re busy, so I won’t take up your time shooting the breeze, beating around the bush and all.
(お忙しいでしょうから、世間話や遠回しな前置きでお時間は取らせません)Bosco: That’s what you’re doing.
(今それをやってるだろう)Cho: We want to talk about Jane. Look, we know that Jane crossed the line, but you help us out here and, uh, we’ll be extremely grateful.
(ジェーンの件で話があります。彼が一線を越えたのは分かっています。でもここで力を貸してもらえたら、本当に感謝します)The Mentalist Season2 Episode6(Black Gold and Red Blood)
シーン解説と心理考察
リグズビーの一言は、丁寧に組み立てられています。相手が忙しいことを認め、時間を取らせないと約束し、そのうえで本題に入ろうとする。手順としては正しいはずでした。
ところが、その前置きが長すぎました。話をそらす言い方を二つも並べているうちに、宣言そのものが無駄話になっています。ボスコが返したのは、たったの一言。今それをやっているだろう、と。相手の言葉をそのまま鏡にして返す返し方で、場の主導権が一瞬で移りました。
助け船を出すように本題を切り出したのがチョウです。ジェーンが一線を越えたことは認める、そのうえで力を貸してほしい。前置きを削ぎ落とした話し方が、直前のリグズビーとの対比になっています。ただし交渉の行方は、このあと二人の思惑から外れていきました。切り出しの一言が、そのまま結末を予告していた場面です。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
銃を空に向けて、風に向かって撃つ光景を思い浮かべてみましょう。当たる的はありません。弾は風の中へ消えていくだけです。狙いのない発砲、つまりどこにも着地しない言葉のやり取りが、この表現の絵柄です。
劇中のリグズビーは、その空撃ちをしないと宣言しました。ところが宣言そのものが、空に向けた一発になっています。撃つ本人と、それを黙って見ているボスコ。
撃つ人と、指摘する人。この滑稽な構図とセットで覚えておくと、中身のない会話という核が絵のまま記憶に残ります。
例文で覚える「shoot the breeze」
のんびりした場面にも、時間の無駄を嘆く場面にも使えます。三つの例文で見ていきましょう。
We sat on the porch shooting the breeze until it got dark.
(暗くなるまで、ポーチに座って世間話をしていた)
予定のない休日を振り返る場面です。until を添えると、時間がゆっくり流れていく感覚が出ます。この表現がいちばん自然に収まる形です。
I didn’t call for anything special. Just wanted to shoot the breeze.
(特に用事があったわけじゃない。ちょっと話したかっただけ)
久しぶりに電話をかけ、用件を聞かれた場面です。用がないことを伝える言い方として、そのまま使えます。
A: Did you two talk about the contract?
B: No, we just shot the breeze for an hour.
(A:契約の話はしたの?)
(B:いや、1時間ただ雑談しただけ)
商談に進展がなかったと答える場面です。過去形が shot になる点を、ここで確認しておきましょう。for an hour を添えると、時間だけが過ぎた感じが強まります。
あわせて覚えたい関連表現
chat
(おしゃべりする)
最も中立的で、書き言葉でも使える語です。今回の表現が持つ、だらだらと続く時間の長さという含みはありません。短い立ち話にも使えます。
catch up
(近況を報告し合う)
しばらく会っていなかった相手との会話に限定されます。話題が空白期間を埋める方向へ向かう点が違います。Let’s catch up sometime. は社交辞令としても定番です。
small talk
(当たり障りのない会話)
名詞で、初対面や社交の場で交わす形式的な会話を指します。気楽さより、場をつなぐ機能のほうが前に出る言い方です。
Note|だらだら話すを、どの絵で言うか
雑談を表す英語は、一つではありません。面白いのは、同じ行為を地域ごとに違う絵で言い表してきたことです。
shoot the breeze は、アメリカ英語で育ってきた言い方とされています。近い仲間に chew the fat があり、こちらは脂身を噛むという絵です。どちらも、実質のないものを相手に何かをし続けるという発想を共有しています。
一方、イギリス英語には chinwag や natter といった語があります。chinwag は顎が上下に動く様子から来たとされる言い方で、have a chinwag の形で使われます。natter はぶつぶつと話し続ける音の感じを写した語です。アメリカ側が撃つ・噛むという動作で表したのに対し、イギリス側は顎の動きや音そのものを取り上げている、と並べてみると違いがはっきりします。
世代の差もあります。shoot the breeze や chew the fat は、若い世代の会話より、年配の話者や落ち着いた場面で聞くことが多い言い方だと感じる人もいます。日常でいちばん無難なのは、地域も世代も選ばない chat や hang out です。
同じ「だらだら話す」を、風で言うか、脂身で言うか、顎で言うか。どれを選ぶかで、話し手の背景がうっすら見えてくるのも英語の面白いところです。
まとめ|当たる的のない一発
shoot the breeze は、目的も結論もない気楽なおしゃべりを指す表現でした。そよ風を撃つという絵が、そのまま中身のなさを表しています。
休日の長話を振り返るとき、用事のない電話をかけるとき、あるいは会議が雑談で終わってしまったとき。前後にどんな言葉を置くかで、のんびりした温かさにも、時間の無駄という嘆きにも転びます。
無駄話はしませんと宣言しながら、その宣言で時間を使ってしまったリグズビー。そして一言で場を戻したボスコ。空に向けた一発がどこにも当たらない様子が、そのまま目に浮かぶ場面でした。


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