海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
大切に思っているのに、そう口にするのは照れくさい。そんなとき、気持ちではなく「やってきたこと」のほうを話したくなることはありませんか。愛情を語るより、務めを果たしたと言うほうが、口に出しやすい場面があります。
そんなときに使えるのが「do right by someone」で、相手に対して誠実に振る舞うことを表します。『メンタリスト』シーズン2第11話の中盤、副知事候補ナイランドが、隠していた事情をリズボンに打ち明ける場面に登場します。どのように使われているのか、一緒に見ていきましょう。
「do right by someone」の意味とニュアンス
do right by someone
意味:〜に対して誠実に振る舞う、〜にきちんとしてやる
直訳すると「その人のそばで正しいことをする」。相手に対して果たすべき務めを、言葉ではなく行いで果たすことを表します。気持ちの深さではなく、実際に何をしてきたかに重心がある表現です。
形で覚えておきたいのが、前置詞が to ではなく by だという点です。英語の by には「〜に関して」という古い用法があり、do right by someone の by もこれにあたります。to にすると「その人へ向けて何かをする」という一方向の矢印になりますが、by なら「その人に関わることについて、正しいほうを選ぶ」という関係を表せます。同じ形で do well by someone、do badly by someone とも言えます。
使われるのは、責任がともなう関係です。親と子、雇い主と従業員、組織と利用者。相手を守る立場にある人が、その務めを果たしたと述べるときに選ばれます。裏を返せば、果たせなかった後ろめたさがあるときにも登場する表現で、言い訳の一歩手前で使われることも少なくありません。
【ここがポイント!】
- 核は「相手のそばに立って、正しいほうを選び続ける」という姿勢
- 前置詞は to ではなく by。「〜に関して」の by だと押さえるのがコツ
- 気持ちではなく行いを語る一言なので、責任のある関係でよく登場する
『メンタリスト』S02E11のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
同窓会の会場で学生大使を務めていたテスと、副知事候補ナイランドの間に接点があることに、ジェーンが気づきます。問い詰められたナイランドは、長く伏せてきた事情をついに認めます。取り繕う言葉が尽きたあとで、彼が自分から差し出したのがこの一言でした。
Lisbon: She’s your daughter?
(あの子、あなたの娘なの)Nyland: Her mother was a year behind me. Tess was born a few weeks before I graduated. Families agreed to keep it quiet. But I’ve always done right by Tess. Come out to see her whenever I can. Discreetly, of course.
(母親は一学年下だった。テスは私の卒業の数週間前に生まれた。両家で伏せておくことにしたんだ。だが私はずっとテスに誠実であろうとしてきた。会える時には必ず来ている。もちろん、人目につかないように)Lisbon: Did you ever see Selby when you visited?
(来たときにセルビーに会ったことは)Nyland: Last year, at a gas station just outside of town. We said a quick hello, went our separate ways.
(去年、町外れのガソリンスタンドで。軽く挨拶を交わして、それぞれの道を行った)The Mentalist Season2 Episode11(Rose-Colored Glasses)
シーン解説と心理考察
十代で子どもができ、両家の合意で伏せたまま十五年が過ぎた。ナイランドが語るのは、そういう来歴です。選挙を控えた立場では、事実そのものが弱みになりかねません。それでも彼は否定せず、事情を順に説明していきます。
その説明の中で do right by という言い方が選ばれたことに、この人物の立ち位置がよく表れています。「愛している」でも「責任を取った」でもなく、やるべきことはやってきた、という一点だけを述べる。感情に踏み込まないので、公人としての口調を崩さずに済みます。同時にそれは、名乗り出られなかったという事実を覆い隠す言い方でもあります。
続く discreetly of course という補足が、その両面を静かに示しています。会いには行った、ただし人目につかないように。誠実さの証明として挙げた行いに、そのまま制約がついている。取材や演説で鍛えた話し方が、私的な場面でも抜けないことが伝わってきます。なお、同じ表現はこの数十秒後、ナイランドが被害者セルビーの人柄を評する場面でもう一度使われます。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
by は「そばに」を表す前置詞です。stand by someone(そばに立つ)と同じ位置感覚が、この表現にも残っています。相手の隣に立ち、その人に関わることについて、正しいほうを選び続ける。do right by someone は、その姿勢をそのまま言葉にしたものです。
to にしてしまうと、正面から相手に向かって何かを渡す絵になります。by なら、並んで立つ絵になります。劇中のナイランドは、名乗り出られないまま十五年間、少し離れた場所から娘のそばに立ち続けたと語りました。あの微妙な距離感ごと「となりに立って、正しいほうを選ぶ」と覚えておけば、前置詞を取り違えることはありません。
例文で覚える「do right by someone」
家族への責任から、組織としての姿勢まで。使い方の幅がわかる3つの例文を見ていきましょう。
He worked two jobs to do right by his kids.
(彼は子どもたちのために、仕事を掛け持ちして働いた)
家族の話を友人に語る場面です。気持ちではなく実際の行動が語られるので、この表現の性格がよく出ます。
We want to do right by the employees affected by the restructuring.
(組織再編の影響を受ける社員に対して、誠実に対応したいと考えています)
人事施策を社内に説明する場面です。企業の声明でよく使われる型で、責任の所在をぼかさずに述べられます。
A: Why are you helping him?
B: Because someone has to do right by him.
(A:どうして彼を助けるの)
(B:誰かがきちんと向き合わないといけないから)
自分の動機を問われて答えるやり取りです。短く言い切れるので、理由をくどく説明せずに済みます。
あわせて覚えたい関連表現
treat someone right
(〜をちゃんと扱う)
日々の接し方の良さを指します。do right by someone に含まれる「果たすべき務め」という重みはなく、もう少し軽い場面でも使えます。
look after someone
(〜の面倒を見る)
世話や保護という具体的な行為が中心です。do right by someone は行為だけでなく、正しいほうを選んだという道義的な判断を含みます。
do justice to something
(〜の真価を正しく扱う)
対象が作品や素材などモノになることが多い表現です。人への責任というより、扱い方が対象にふさわしいかどうかを言います。
Note|right をめぐる三つの言い方
英語には right を使った「正しく振る舞う」系の表現がいくつもあります。似て見えますが、正しさの矛先がそれぞれ違います。
do the right thing は、行為そのものの善悪を問います。落とし物を届ける、不正を報告する。誰に対してかは関係なく、その行いが正しいかどうかが焦点です。treat someone right は、接し方の話になります。丁寧に扱う、粗末にしない。日々のふるまいの質を評価する言い方で、恋愛や職場の人間関係でよく使われます。そして do right by someone は、特定の相手に対して負っている務めを果たしたかどうかを問います。三つの中でいちばん責任の色が濃く、果たすべき義務が前提にあります。
この違いは、否定形にすると一段はっきりします。He didn’t do the right thing は「彼の行いは間違っていた」。He doesn’t treat her right は「彼女への接し方がよくない」。He didn’t do right by her となると、「彼女に対して果たすべきことを果たさなかった」となり、放置や裏切りに近い重さが出ます。同じ right でも、責める内容が変わってしまうわけです。
劇中のナイランドが選んだのは三つ目でした。行いの善悪でも、日頃の接し方でもなく、父親としての務めを果たしたかどうか。その一点に話を絞ることで、彼は自分の立場を守ろうとしています。表現の選び方そのものが、話し手の身の置き方を映していると言えます。
どの right を使うかで、語られる関係の形まで変わります。
まとめ|となりに立って、正しいほうを選ぶ
do right by someone は、相手に対して負っている務めを行いで果たすことを表す表現でした。前置詞が by なのは、その人に関わることについて正しいほうを選ぶ、という関係を示すためです。
この言い方を持っていると、気持ちを直接語らずに、大切に思っていることを伝えられます。家族の話でも、仕事上の責任の話でも、行動を根拠にして誠実さを示せるようになります。
十五年伏せてきた事情を認めたうえで、それでも務めは果たしたと語ったナイランド。誠実さを主張する言葉が、同時に後ろめたさを覆う言葉にもなっていました。その二重の響きごと、表現の引き出しに加えてみてください。


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