海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
大事にしているものを雑に扱われそうになって、「それ、傷でもつけたら本当にただじゃおかないから」と、思わず強い言葉で釘を刺したくなったことはありませんか。相手を本気で責めるつもりはなくても、つい大げさな言い方になってしまう場面です。
そんなときにぴったりの「hell to pay」を、『BONES』シーズン12第2話の冒頭、ドッグショーに出場する犬たちが林の中へ逃げ込み、飼い主たちが慌てて追いかけるシーンから、一緒に見ていきましょう。
「hell to pay」の意味とニュアンス
hell to pay
意味:ただではすまない、厳しい報いがある
これから起きる深刻な結果や面倒事を、前もって予告する表現です。多くは there will be hell to pay、there’s gonna be hell to pay のように、there is 構文とセットで使われます。
直訳すれば「地獄に支払うべきものがある」。今この瞬間には何も起きていないけれど、支払いの期日は確実にやってくる、という後払いの構図がこの表現の中心にあります。だから未来を指す形と結びつきやすく、「今のうちに考え直した方がいい」という警告として機能します。
もう一つの特徴は、深刻さの度合いが話し手の主観で決まる点です。会社の存続がかかった場面でも使えますし、家族の最後のケーキを食べてしまった程度のことにも使えます。大げさに言うこと自体が、この表現の持ち味になっています。
なお、ここでの hell は宗教的な重みをほとんど持たない強意語です。日本語の「地獄」ほど重く受け取る必要はありません。
【ここがポイント!】
- 核にあるのは「支払期日は必ず来る」という後払いの請求書のイメージ
- 国家的な危機から家庭内の小競り合いまで、深刻さの幅がとても広い一言
- there will be hell to pay の形で覚えておくと、そのまま口から出しやすくなります
『BONES』S12E02のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
物語の幕開けは、ドッグショーの会場近くにある林です。出場犬のレディ・カーライルとガストンが、飼い主の目を離れた隙に走り去ってしまいます。飼い主のドナルドとパティは、軽口を叩き合いながらも、やがて別々に愛犬を探し始めます。しばらく林をさまよったパティが、いよいよ焦れてきたところで、あの一言が飛び出します。
Donald: Patty, have you seen Lady Carlisle? I can’t find her anywhere.
(パティ、レディ・カーライルを見なかった? どこにも見当たらないんだ)Patty: Oh, relax, Donald. I’m sure she’s off sniffing butts like the creepy little mutt that she is.
(落ち着きなさいよ、ドナルド。どうせそのへんで匂いを嗅ぎ回ってるだけよ、あの気味の悪い雑種犬なんだから)Donald: I’m serious. I turned around for one second and she just ran off.
(本気で言ってるんだ。ちょっと目を離した隙に、走っていってしまったんだよ)Patty: I swear, if Gaston’s so much as scuffed his pedicure, there is gonna be hell to pay!
(誓って言うけど、ガストンの爪が少しでも傷ついてたら、ただじゃおかないからね!)BONES Season12 Episode2 (The Brain in the Bot)
シーン解説と心理考察
同じ状況に置かれた二人の飼い主が、まったく違う反応を見せているのが見どころです。ドナルドは愛犬の行方をひたすら案じ、名前を呼び続けます。軽くあしらわれても I’m serious(本気で言ってるんだ)と食い下がるあたりに、彼の心配の度合いが表れています。一方のパティは、犬の安否ではなく爪の状態を気にしています。so much as scuffed(少しでも傷ついていたら)という言い方が、彼女の関心の向き先をはっきり示しています。
hell to pay という強い言葉が、命の心配ではなく毛並みと爪の話に使われている。この落差が、シーン全体の可笑しみを支えています。しかもパティ本人は大真面目です。誰に対して報いを求めるのかも明示されていません。ただ「ただではすまない」とだけ宣言する、宛先のない脅し文句になっているところに、この人物の輪郭が出ています。
この直後、二人が向かう林の奥には、事件の発端が待っています。日常のささいな苛立ちから物語が始まる、『BONES』らしい幕開けです。
『BONES』流・覚え方のコツ
このフレーズは、封を切っていない請求書を思い浮かべると覚えやすくなります。今はまだ引き出しの中で静かにしている。けれど支払期日は書き込まれていて、その日は必ずやってきます。hell to pay が予告している「報い」は、この請求書です。
パティの一言も、未払いの通知を手渡す身振りでした。まだ何も起きていない段階で、起きた場合の支払額だけを先に宣言している。だから彼女の言葉は、悲鳴ではなく警告として響きます。
爪に傷ひとつ、という小さな損害に、地獄への支払いという大げさな金額が書き込まれている。この不釣り合いごと覚えてしまえば、深刻さの幅が広いこの表現の使い勝手も頭に残ります。
例文で覚える「hell to pay」
報いを予告する表現なので、未来を指す形とよく馴染みます。3つの例文で使い方の幅を見てみましょう。
If the client finds out we missed the deadline, there’ll be hell to pay.
(締め切りを落としたのがクライアントに知られたら、ただではすまないぞ)
納期の遅れが発覚しそうな社内での会話です。if 節で条件を示すと筋道が通ります。
He knew there would be hell to pay if he told the truth, but he told it anyway.
(報いがあると彼はわかっていた。それでも真実を話した)
覚悟を決めた行動を振り返る場面です。時制を過去にずらすと、警告ではなく回想になります。
A: You ate the last piece of cake?
B: Yeah, why?
A: That was Mom’s. There’s gonna be hell to pay.
(A:最後のケーキ食べたの?)
(B:うん、なんで?)
(A:あれ母さんのだよ。ただじゃすまないからね)
家族の小さな揉め事です。深刻でなくても大げさに言えるのが、この表現の持ち味です。
あわせて覚えたい関連表現
face the music
(自分がしたことの報いを受ける)
hell to pay が「これから報いが来る」と外側から予告するのに対して、こちらは報いを自分で受け止めに行く姿勢を指します。主語が引き受ける側に立つ点が違います。
pay the price
(代償を払う)
同じ「支払い」の比喩ですが、実際に代償を払った結果を語ることが多く、感情の温度は低めです。書き言葉でも使いやすく、hell to pay より落ち着いた響きになります。
there will be consequences
(相応の結果が伴う)
報いを予告する点は同じでも、こちらは冷静でかしこまった言い方です。職場の正式な警告や文書ではこちらが選ばれ、hell to pay は選ばれません。
Note|hell が入っていても「地獄」の話ではない
hell to pay を初めて見たとき、地獄という語の重さに身構えてしまう人は少なくありません。けれど実際の英語では、hell はずいぶん軽い顔をして日常に紛れ込んでいます。
英語には hell を使った言い回しが数多くあります。what the hell(一体全体)、a hell of a day(とんでもない一日)、all hell breaks loose(大混乱になる)、go to hell(くたばれ)。並べてみると、地獄そのものを語っている表現は一つもありません。どれも hell が「程度の強さ」を担う部品として働いていて、宗教的な意味は抜け落ちています。日本語で「めちゃくちゃ疲れた」と言うときの「めちゃくちゃ」に近い立ち位置だと考えると、距離感がつかみやすくなります。
ただし、軽いからといってどこでも使えるわけではありません。hell は放送や公的な文書では避けられる語でもあり、企業のプレスリリースや取引先への正式な通知に there will be hell to pay と書かれることはまずありません。そうした場面では there will be consequences のような表現に置き換わります。強いけれど下品ではない、しかし公式の場には出さない。この中間的な位置づけが、hell を含む表現に共通する感覚です。
だからパティの一言も、彼女の品位を疑わせるものではありません。友人相手の、感情のこもった軽口として受け取るのが自然です。逆に言えば、同じ内容を上司や取引先に伝えるなら、別の言葉を選ぶ必要があります。
強さと場面。この二つを分けて考えると、hell の扱いに迷わなくなります。
まとめ|ドッグショーの飼い主が見せた本気の温度
hell to pay は、実際に何かが起きる前に、起きたときの重さだけを先に宣言する表現です。手を出す代わりに結果を告げる。その一手だけで、話し手の本気度が相手に伝わります。
この一言を持っておくと、感情を爆発させずに本気度だけを示せるようになります。怒鳴る代わりに、報いの存在を静かに置く。友人同士の軽口としても、仕事仲間への釘刺しとしても、幅広く使える一言です。
愛犬の爪に傷ひとつ、というささやかな心配に、地獄への支払いという大げさな言葉を持ち出したパティ。その不釣り合いこそが、この表現の懐の深さを教えてくれます。大げさに言っていい場面かどうかを見極めながら、表現の引き出しに加えてみてください。


コメント