海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
試合や審査の結果に納得できないとき、「あれは最初から仕組まれていたのでは」という疑いが頭をよぎる場面があります。スポーツでも仕事でも、公正であるはずの立場の人が誰かの側に立っていた、と感じてしまう瞬間です。
そんな疑いを一言で言い表すのが「have someone in one’s pocket」です。『メンタリスト』シーズン3第11話の序盤、試合に敗れた格闘家の控室で、敗戦への不満をぶちまける場面に登場します。
「have someone in one’s pocket」の意味とニュアンス
have someone in one’s pocket
意味:~を支配下・影響下に置いている、意のままに動かせる
直訳は「~を自分のポケットの中に持っている」です。ポケットに入っているものは、持ち主が好きなときに出し入れできます。人をその位置に置いてしまうところに、この表現の含みがあります。
核にあるのは、相手を自分の control や influence の下に置き、必要なときに都合よく動かせる状態です。買収や金銭が背景にある場合もありますが、それだけに限定されません。単なる協力関係や仲の良さより強く、相手の独立性を疑う批判的な響きを帯びます。
そのため、審判・規制当局・審査員・上層部など、公正さが前提になっている相手に向けて使われることが多い言い回しです。政治や報道の文脈では、裏返した in the pocket of ~ という形もよく見かけます。
具体的にどのような手段で影響力を得たのか、また関係がどれほど続いているのかは、表現だけでは確定しません。金銭・貸し・弱みなどの背景は文脈から読み取ります。
【ここがポイント!】
- 核は「ポケットの中の持ち物」、持ち主が好きに出し入れできる位置に人を置く絵
- 中立であるべき相手に向けると効く、批判の含みが最初から入った言い回し
- 金銭や継続期間は表現だけで決まらず、支配・影響の手段は文脈で読む
『メンタリスト』S03E11のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
試合に敗れた直後の控室に、ジェーンが慰めるつもりで入っていきます。メリマンはフラッコの蹴りで倒され、レフェリーのカウントで試合を終えました。しかし、捜査で来たと聞くと殺人事件そっちのけで敗戦への不満をまくし立てます。負けを「盗まれた」と言い張るその勢いの中で、レフェリーがどういう状態だったのかを、彼はこの一言で片づけます。
Jane: I’m CBI. I’m investigating a murder.
(CBIです。殺人事件の捜査で)Merriman: Oh, you’re a cop?
(刑事か?)Jane: Well, not officially.
(まあ、正式には違いますが)Merriman: No, man. Screw murder. I got a robbery to report. That little fanny-pack Flacco wouldn’t have won dip if he didn’t have the stinkin’ ref in his pocket!
(いや、殺人なんか知るか。こっちは強盗を届け出たいんだ。あのウエストポーチ野郎のフラッコは、レフェリーを抱き込んでなきゃ何ひとつ勝てなかっただろ!)The Mentalist Season3 Episode11(Bloodsport)
シーン解説と心理考察
負けた直後の人間が何を口にするかに、その人物像がまるごと表れています。メリマンは自分が倒されてカウントを取られたことより、まず敗北を「強盗」と呼び替え、原因を外側に置きます。
そのうえで持ち出されるのが、レフェリーが相手のポケットに入っていた、という言い方でした。試合を裁く立場の人間を、片方の陣営の持ち物として扱う表現です。ここには、自分は負けていないという主張がまるごと乗っています。
殺人事件の捜査だと告げられても話題が自分の敗戦に戻ってしまうところに、この人物の関心の向きがにじむ場面です。事件よりも自分の名誉が先に来る。その優先順位が、後の取り調べでの態度にもそのまま続いていきます。
一方のジェーンは、慰めに来たはずが相手の勢いに押し切られています。二人のかみ合わなさが会話の温度を変えており、事件の入り口としてはずいぶん風変わりな聴取になっています。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
ズボンのポケットに手を入れて、鍵や小銭を握る動作を思い浮かべてください。そこにあるものは、いつでも取り出せて、いつでもしまえます。持ち主の都合だけで動く位置にある、ということです。
この表現は、その位置に人を置きます。控室のシーンでは、試合を裁くはずのレフェリーが、相手陣営のポケットの中にいたことにされました。中央に立っているべき人物が、片側の手の中に移動している。その絵が浮かべば、なぜこの言い方が批判として機能するのかも一緒に理解できます。
前置詞は in で固定です。on にすると布の表面に載っているだけになり、しまい込んで隠しているという含みが消えてしまいます。ポケットの外ではなく中、という一点を押さえておけば迷いません。
例文で覚える「have someone in one’s pocket」
目的語に人を置くのが基本形で、in the pocket of ~ と裏返した形もよく使われます。3つの場面で見てみましょう。
Everyone says the company has half the committee in its pocket.
(あの会社は委員会の半分を抱き込んでいる、ともっぱらの噂だ)
ニュースを見ながら家族と話している場面です。噂を伝える形にすると、断定を避けつつこの強い言い方を持ち出せます。
The regulator is supposed to be independent, but critics say the industry has it in its pocket.
(規制当局は独立しているはずだが、業界に握られていると批判されている)
業界レポートや報道記事で見かける形です。批判している人を主語に立てて距離を取るのが、公の文章での書き方になります。
A: Why does he always get approved so fast?
B: Because he’s got the manager in his pocket.
(A:なんで彼の申請だけすぐ通るんだ?)
(B:部長を握ってるからだよ)
同僚と休憩中に社内の力関係を話しているところです。短く言い切るだけで、説明を足さなくても事情が通じる関係性まで一緒に伝わります。
あわせて覚えたい関連表現
buy someone off
(金を渡して黙らせる、買収する)
金銭などを渡して相手を取り込む行為に焦点があります。今回のフレーズは支配・影響下にある状態を表すため、両者は行為と状態という観点で区別できます。
pull strings
(裏で手を回す、コネを使う)
影響力を使う側の動作を表す言い方です。相手を支配下に置いているところまでは言わないため、一回きりの口利きにも使える点で、今回のフレーズより射程が広くなります。
wrap someone around one’s little finger
(~を意のままに操る)
手段を限定せず、相手を巧みに操る、または容易に意のままにできる状態を表します。親子や恋人など親しい関係にも使えますが、操作的・否定的に響くこともあるため、文脈に応じて受け取り方が変わります。
Note|ポケットが政治の言葉になるとき
この言い回しは、スポーツの控室よりもむしろ、政治や報道の文脈で頻繁に見かけます。なぜポケットが、公正さを問う言葉として使われるようになったのでしょうか。
英語圏の報道では、規制する側とされる側の距離が近すぎる状態を批判するとき、in the pocket of ~ という形が使われます。米国の連邦選挙では、企業の一般財源から連邦候補者へ直接献金することは禁止されています。一方、一定の要件のもとで設けられる separate segregated fund(SSF、一般に企業PACと呼ばれる仕組み)や、個人による献金などは別のルールで扱われます。したがって、企業献金を語る際は「企業が候補者へ直接資金を渡せる」と一括りにせず、資金の出所と制度を区別する必要があります。
同じ構図は経済の分野にもあります。監督官庁が業界の利益を優先するようになる現象には regulatory capture という名前がついており、学術的にも長く研究されてきたテーマです。ポケットという日常的な言葉が、こうした専門的な議論の入り口として使われ続けているのは、誰の持ち物になっているのかという問いが誰にでも直感的に伝わるからでしょう。
そう考えると、控室で飛び出したあの一言も、単なる負け惜しみではない厚みを持っています。試合を裁く人が誰の側にいたのか。スケールは違っても、問いの形そのものは政治の議論とまったく同じでした。
誰の手の中にいるのか。その一点だけを突く言葉です。
まとめ|中立であるはずの人が、誰かの側にいるとき
have someone in one’s pocket は、公正であるべき立場の人が、片方の側の持ち物のようになっている状態を指す表現です。支配される側を持ち物に置き換えてしまうところに、この言い方の鋭さがあります。
この一言を知っておくと、英語のニュースや記事で in the pocket of ~ という形に出会ったときに、書き手が何を批判しているのかがすぐにつかめるようになります。強い含みを持つ表現なので、自分から使うときは噂の形にしたり、批判者を主語に立てたりして距離を取るのが安全です。
ポケットという身近な言葉が、公正さを問う一語になる。そんな英語の発想ごと、会話のレパートリーに加えてみてください。


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