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迷っている相手に「やってみたら」と背中を押したい。けれど、強く勧めすぎるのも気が引ける。そんな場面に出会ったことはありませんか。
そんな場面で使える「it can’t hurt to」を、『フレンズ』シーズン6第22話の前半、ミュージアムでの結婚式の予約待ちを前に、レイチェルがモニカの背中を押すシーンから、一緒に見ていきましょう。
「it can’t hurt to」の意味とニュアンス
it can’t hurt to
意味:〜しても損はない、やってみて害にはならない
it can’t hurt to は、あとに続く行動をとっても、悪いことは何も起きない、と伝える言い方です。hurt は「傷つける」「痛める」という意味の動詞で、can’t hurt は「傷つけることはない」、つまり害になる心配はない、という意味になります。to のあとに動詞の原形が続いて、「〜することは害にならない」という形になります。
it は、to 以下の行動を指す形式的な主語です。It can’t hurt to ask. なら「聞いてみても損はない」で、聞くという行動そのものが it の中身です。「やりなさい」と迫る言い方ではなく、試したときのマイナスがないことを示して、相手の背中を軽く押す型です。
迷っている相手に、リスクの低い選択肢を提案するときに合う言い方です。「やらなくてもいいけれど、やっても損はない」という、押しつけない後押しの調子があります。相手が「意味があるのかな」「面倒だな」と足踏みしているときに、その心配を先回りして取り除く働きをします。
【ここがポイント!】
- 核は、試しても害にならないと示して、相手の背中を軽く押す提案
- it は形式主語で、to 以下の行動を指す
- to のあとは動詞の原形。ing 形で言うなら there’s no harm in ~ing の形になる
『フレンズ』S06E22のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
レイチェル、モニカ、フィービーの3人は、結婚式を挙げられるミュージアムの会場を見ています。会場の人から「2年待ち」だと聞かされ、レイチェルはモニカに、待ちの申し込みに名前を書くよう勧めます。モニカは「結婚の予定も、婚約もしていない」と渋りますが、フィービーの説得のあと、レイチェルが今回の一言でもう一度背中を押します。
Rachel: And it can’t hurt to put your name down. If in two years you’re not engaged you just don’t use it.
(それに、名前を書いておいて損はないでしょ。2年たっても婚約してなかったら、使わなきゃいいだけよ。)Monica: Well, I guess there is no harm in putting my name down.
(まあ、名前を書いておくくらいなら、害はないかもね。)Rachel: I’m going to do it, too.
(私もやるわ。)Phoebe: Me, too.
(私も。)Friends Season6 Episode22(The One Where Paul’s the Man)
シーン解説と心理考察
レイチェルの発言は And で始まっています。この And は、直前までのやり取りに、もうひとつ理由を足す使い方です。モニカは「結婚の予定も、婚約もしていない」と渋り、フィービーは待ち時間が長いことを理由に説得しました。そこへレイチェルが、it can’t hurt to put your name down と重ねます。
レイチェルは続けて、2年たっても婚約していなければ使わなければいい、と言います。use it の it は、名前を書いておくことで手にできるものを指しています。名前を書くことで失うものはなく、使うかどうかは後で決められる、という筋道です。it can’t hurt to の中身が、「使わなくていい」という一言で具体的になっています。
モニカは、Well, I guess there is no harm in putting my name down. と応じます。there is no harm in ~ing は、it can’t hurt to と同じ内容を別の形で言ったものです。I guess は、確信を持ちきれないまま同意するときに添える言い方で、Well と合わせて、ためらいを残しながら受け入れる言い回しになっています。レイチェルとフィービーが I’m going to do it, too. と Me, too. で続き、3人が同じ行動をとる流れになります。
it can’t hurt to は、相手を説き伏せる言葉ではなく、断る理由を減らす言葉として働いています。モニカが「結婚の予定はない」という理由で渋っているのに対し、レイチェルは「書いても失うものはない」と、書かない理由のほうを薄めています。この後押しのあと、モニカが名前を書くことに同意しているので、言葉が働いた流れがはっきり読み取れます。
『フレンズ』流・覚え方のコツ
hurt を「傷つける」と読み、can’t hurt を「その行動は誰も傷つけない、失うものがない」と捉えてみましょう。一歩踏み出す前の「やって損したらどうしよう」という心配に、「損はしないよ」と先回りして答える言葉です。
レイチェルの一言も、モニカの「結婚の予定はない」という心配に、書いても失うものはないと答えていました。身近な形では、It can’t hurt to ask. のように、聞くだけ聞いてみることを勧める使い方があります。「聞くだけならタダ」のような感覚と重ねると、型がつかみやすくなります。
例文で覚える「it can’t hurt to」
背中を軽く押す場面で使われる it can’t hurt to を、3つの例文で確認していきましょう。
It can’t hurt to ask.
(聞くだけ聞いてみても損はないよ。)
遠慮している相手に、聞いてみるよう勧める場面です。it can’t hurt to の型を、もっとも短く使える形です。
It can’t hurt to double-check the date before you book the tickets.
(チケットを取る前に、日付をもう一度確かめておいて損はないよ。)
予約の前に、確認を勧める場面です。to のあとには double-check のような動詞の原形が入り、before 以下で確認のタイミングを添えています。
A: Do you think I should send the resume anyway?
B: Sure. It can’t hurt to try.
(A:とにかく履歴書を送ったほうがいいかな?)
(B:もちろん。やってみて損はないよ。)
応募を迷っている友人との会話です。to のあとに try を置くと、「試すだけ試す」という気軽な後押しになります。
あわせて覚えたい関連表現
there’s no harm in ~ing
〜しても害はない
there’s no harm in ~ing は、動詞を ing 形にして続ける言い方です。it can’t hurt to は to 不定詞を使います。モニカ自身が、シーンの中でこちらの形を使っています。
it wouldn’t hurt to ~
〜しても悪くはないだろう
wouldn’t を使うと、控えめな提案の響きになります。can’t は「害にならない」と、より言い切る形です。
might as well ~
〜したほうがましだ、どうせなら〜しよう
might as well は、ほかにすることもないのでやってみよう、という消極的な後押しです。it can’t hurt to は、「損はない」という理由づけを示す言い方です。
Note|hurt の意味の幅と、「害にならない」を言う3つの型
it can’t hurt to の hurt は、「痛める」「傷つける」を基本とする動詞です。
人の体や気持ちを傷つける場面が中心ですが、主語が物事や行動になると、「不利になる」「害になる」という意味になります。たとえば A little rest won’t hurt. なら、「少し休んでも害にはならない」で、休むという行動が主語に立っています。傷つける相手が人から、状況や結果に広がった使い方です。
「害にならない」を言う型には、いくつかの形があります。it can’t hurt to ~ は to 不定詞を使い、there’s no harm in ~ing は動名詞を使います。it wouldn’t hurt to ~ は、can’t の代わりに wouldn’t を置いて、仮定の響きで控えめな提案にした言い方です。どれも「〜しても害はない」という同じ方向を向いています。違いは、あとに続く動詞の形(原形か ing 形か)と、言い切りの強さです。
今回のシーンには、この型のうち2つが続けて出てきます。レイチェルが it can’t hurt to、モニカが there is no harm in ~ing と、同じ内容を別の型で言い合っています。ひとつの会話の中で見比べると、型の違いがつかみやすくなります。
動詞の形が変われば、型が変わります。
まとめ|「損はない」と伝えて、背中を軽く押す一言
it can’t hurt to は、あとに続く行動をとっても害にはならない、と伝える言い方です。強く勧める言葉ではなく、試すときのマイナスがないことを示して、相手の背中を軽く押します。
作中では、モニカが「結婚の予定はない」と渋る場面で、レイチェルが「名前を書いておいて損はない」と、書かない理由のほうを薄めていました。モニカも there is no harm in ~ing で応じ、同じ内容を別の型で言い合う流れになっています。
迷っている相手に、リスクの低い選択肢を勧めたい場面が来たら、心配を先回りして取り除く一言として、表現の引き出しに加えてみてください。


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