海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
『BONES』シーズン9エピソード5では、職場に持ち込まれたコンピューターのプログラム「VAL」の呼び方が、たびたび話題になります。今回は、人ではないものを she と呼ぶか it と呼ぶかという、代名詞の使い分けを読み解きます。
英語の代名詞は、文法のルールで機械的に決まるように見えて、実は話し手の気持ちがにじみ出る部分でもあります。ひと言の選び方で、相手との距離感まで伝わることが見えてくるはずです。
機械は基本「it」、親しみを込めると「she」
英語では、物や機械、動物など人ではないものは it で受けるのが基本です。ところが作中では、VALを使う側が、まるで同僚のように VAL を she と呼んでいます。
— I’m just telling you what VAL says.
(VALの言っていることを伝えてるだけだよ。)— And how exactly does VAL tell you these things?
(で、VALはどうやってそれを伝えてくるの?)— Oh, well, if I’m not in my office, you know, she texts me.
(ああ、オフィスにいないときは、彼女がメッセージを送ってくるんだ。)BONES Season9 Episode5 (The Lady on the List)
she texts me の she は、プログラムを人のように扱う言い方です。文法的には it texts me でも意味は通じますが、she にすると、ただの道具ではなく「一緒に働く相手」のような親しみが加わります。
すると少しあとで、その呼び方に待ったをかける声が入ります。
— Okay, can we please stop calling it “her” and “she“?
(ねえ、それを「彼女」って呼ぶのはやめてくれない?)BONES Season9 Episode5 (The Lady on the List)
ここで話し手自身は calling it と、it を使っているのがポイントです。「これは人ではなく物だ」という立場が、代名詞の選び方にそのまま表れています。
「It.」と言い直させるひと言
その後、VALをよく思っていない側が、感情をあらわにする場面があります。
— I hate VAL.
(VALなんか大嫌いだ。)— She is stupid.
(あいつはバカだよ。)— I hate her.
(大嫌いだ。)— “It.”
(「それ」でしょ。)— You hate “it.”
(嫌いなのは「それ」。)— You might as well hate a transistor radio.
(それならトランジスタラジオを嫌うのと変わらない。)BONES Season9 Episode5 (The Lady on the List)
嫌っている相手のことまで she や her で呼んでいるのは、VALを人のように意識している裏返しとも読み取れます。それに対して、相手の言葉を “It.” とひと言だけ言い換えて正すのが、英語らしい言い直しの形です。日常会話でも、You mean “it”?(「それ」のことでしょ?)のように、相手の語を取り上げて訂正する言い方はよく使われます。
You might as well ~ は「〜するのと同じことだ」という意味で、「機械を嫌うのはラジオを嫌うようなもの」と、感情を向ける対象ではないことを伝えています。
手放したくないものは「her」と呼ぶ
終盤には、VALと話していたという相手が she と呼び、聞いた側がその語をくり返す場面もあります。
— You were, um, talking to VAL?
(えっと、VALと話してたの?)— Yeah, she has the most amazing sense of humor.
(ええ、彼女のユーモアのセンスは最高なんです。)— “She.”
(「彼女」ね。)BONES Season9 Episode5 (The Lady on the List)
ここでも、相手の語をそのままくり返すだけで「その呼び方、気になるんだけど」という引っかかりが伝わります。VALが返却されることになると、手放したくない側は最後まで her と呼び続けます。
— Wait, no, uh, don’t take her.
(待って、だめ、彼女を連れていかないで。)— Please. C-Can I buy her?
(お願いです。か、買い取れませんか?)— Can I… can I have her?
(僕が…僕がもらえませんか?)BONES Season9 Episode5 (The Lady on the List)
英語には、船や車などを she と呼ぶ伝統的な言い方があり、愛着のある乗り物を She’s a beauty.(きれいな船だ)と表現することもあります。ただし、AP通信の表記ルールでは船や音声アシスタントにも it を使うよう勧めているとされ、現在の書き言葉では it が標準と言えます。she は「特別な思い入れがある」という気持ちを込めた、話し言葉寄りの選択と考えると分かりやすくなります。
| 代名詞 | 響き | 例 |
|---|---|---|
| it | 標準・中立 | It stopped working.(動かなくなった) |
| she / her | 愛着・擬人化 | She’s been with me for ten years.(10年来の相棒だ) |
まとめ|代名詞ひとつで気持ちが変わる
機械やコンピューターは it で受けるのが基本で、she と呼ぶと親しみや愛着がにじみます。相手の呼び方が気になるときは “It.” のように語をくり返すだけで、言い直しを促せます。代名詞の選び方に注目すると、登場人物それぞれの気持ちの違いが見えてきます。
次に『BONES』を観るときは、人ではないものが何と呼ばれているかにも耳を傾けてみると、新しい発見がありそうです。
同じエピソードでは、職場の立場を表す言い方や、日取りを聞かれたときの返し方もコラムで取り上げています。


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