海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
相手の欠点をちゃんと分かったうえで、それでも一緒にいたい。そう伝えたつもりが、かえって相手を怒らせてしまった。そんな経験に心当たりはありませんか。誠意のつもりの一言が、思わぬ刺になることがあります。
そこで鍵になるのが「in spite of」という表現です。不利な事情をはねのけて、それでも、という譲歩を表します。『フレンズ』シーズン2第8話の終盤、傷ついたレイチェルにロスが弁明を試みる場面から、一緒に見ていきましょう。
「in spite of」の意味とニュアンス
in spite of
意味:〜にもかかわらず、〜があっても
spite はもともと「悪意」「意地の悪さ」を意味する名詞です。in spite of を直訳すれば「〜の悪意の中にあっても」となり、何かがこちらを妨げようとする状況が前提として置かれています。
つまりこの表現には、単なる「〜だけれど」以上の含みがあります。不利な条件、障害、欠点。そうしたものが立ちはだかっているのを承知のうえで、それをはねのけて進む。そんな対抗の姿勢が根に流れています。
文法的に押さえておきたいのは、後ろに名詞または動名詞が続くという点です。in spite of the rain、in spite of being tired のように使います。although や even though が接続詞で節を従えるのに対し、in spite of は前置詞句として名詞のかたまりを受け止めます。
ほぼ同義の despite という語もありますが、こちらは of をつけません。despite the rain が正しく、despite of the rain は誤りになります。in spite of は三語、despite は一語。この一点で混同しやすいので、セットで覚えておくと安心です。
【ここがポイント!】
- 核にあるのは spite、つまり「立ちはだかる悪意」をはねのける対抗の構え
- 後ろに来るのは名詞か動名詞、although のように節は続かないのが要注意
- despite とほぼ同義ながら、despite of とは書かないのが落とし穴
『フレンズ』S02E08のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
ロスが自分の短所を書き並べたリストの存在を知り、レイチェルは深く傷ついています。分かっているつもりで歩み寄ろうとするロスを、彼女は途中で遮りました。信頼していた人が自分をそう見ていたという事実そのものに、問いは向けられていきます。ロスは誠意を込めて答えますが、その言葉の選び方が事態をさらに悪くします。
Ross: I know how you must–
(君がどんな気持ちか、俺にも分かる……)Rachel: No! You don’t, Ross. Now, how would you feel, if the one person that you trusted the most in the world not only thinks them too but actually uses them as reasons not to be with you.
(いいえ! 分かってない、ロス。世界で一番信じてた人が、あなたについて同じように思ってるだけじゃなくて、それを一緒にいない理由にしてたら、どんな気持ちになる?)Ross: No, but… see, I wanna be with you in spite of all those things.
(いや、でも……分かってくれ、俺はそういうこと全部あっても、君と一緒にいたいんだ。)Rachel: Oh! Well, that’s mighty big of you, Ross.
(あら! ずいぶんとご立派なこと、ロス。)Friends Season2 Episode8(The One with the List)
シーン解説と心理考察
ロスの in spite of all those things には、彼なりの誠実さが込められています。欠点を知っている、それでも君を選ぶ。彼の中では、これは愛情の証明だったはずです。
ところが、その論法には決定的な前提が潜んでいました。「そういうこと全部」が存在するという認識そのものが、すでに動かせない事実として据えられているのです。レイチェルにとって痛いのは、選ばれなかったことではなく、欠点のある存在として量られていたことでした。
だからこそ、続く「ずいぶんとご立派なこと」という一言が刺さります。ありがとうではなく、皮肉。彼女は彼の譲歩を、上から差し出された寛大さとして受け取ったのです。
良かれと思った弁明が、かえって傷を深くする。in spite of という譲歩の構文が、そのまま二人の距離を測る物差しになってしまう場面と言えます。
『フレンズ』流・覚え方のコツ
目の前に、意地悪な壁が立ちはだかっている場面を思い浮かべてみてください。その壁は、あなたの行く手を阻もうとしています。悪意を持って。
spite とは、この壁の悪意そのものです。そして in spite of とは、その悪意の中に身を置きながら、なお前へ進むということ。迂回するのでも壊すのでもなく、はねのけて通る。
劇中のロスは、レイチェルの短所という壁を自分で並べたうえで、それでも越えていくと宣言しました。ただ、その壁を積んだのが誰かは、向こう側に立つ相手にはっきり見えていたのです。
壁と、それをはねのける身振り。この二つをセットで思い出せば、in spite of の後ろに名詞が来る理由も腑に落ちます。はねのける対象は、いつも「もの」なのですから。
例文で覚える「in spite of」
in spite of は、不利な条件を前提に置いたうえで結論を述べるときに使われます。日常から仕事の場まで、三つの使い方を確かめていきましょう。
In spite of the rain, we enjoyed the trip.
(雨にもかかわらず、私たちは旅行を楽しんだ。)
あいにくの天候にもかかわらず旅行を楽しんだと、悪条件のもとで得られた結果を語る場面です。後ろに the rain という名詞が置かれているのが、この構文のもっとも基本的な形になります。
He kept smiling in spite of being exhausted.
(彼はへとへとにもかかわらず、笑顔を絶やさなかった。)
疲れ切っていながら笑顔を保った人を描写した文で、後ろに動名詞 being が続いています。「〜である状態にもかかわらず」と言いたいとき、in spite of being の形が便利に働きます。
A: She got promoted in spite of her lack of experience.
B: That tells you how much they trust her judgment.
(A:経験不足にもかかわらず、彼女は昇進したんだ。)
(B:それだけ彼女の判断力が信頼されてるってことだね。)
同僚の昇進をめぐって交わされる、職場での一往復です。in spite of が「経験不足」という不利な条件をあらかじめ提示し、それを覆した事実そのものに説得力を与えています。
あわせて覚えたい関連表現
despite
(〜にもかかわらず)
意味は in spite of とほぼ同じで、ややかたい響きを持ちます。決定的な違いは of をつけない点で、despite of と書くのは誤りとされます。書き言葉では despite を選ぶ書き手が多く見られます。
although / even though
(〜だけれども)
これらは接続詞なので、後ろには主語と動詞を備えた節が続きます。名詞句を受ける in spite of とは文構造そのものが異なるため、片方から片方へ書き換える際には形を組み替える必要があります。
regardless of
(〜に関係なく)
条件そのものを考慮に入れないという言い方です。in spite of が「立ちはだかるものをはねのける」のに対し、こちらは最初から視界に入れないという距離の取り方をします。対抗するか、無視するか。姿勢が違います。
Note|spite(悪意)が in spite of(〜にもかかわらず)になるまで
in spite of という言い回しの中に、spite という物騒な語が居座っているのは、少し不思議に映るかもしれません。単独の spite は「悪意」「意趣返し」を意味し、out of spite(意地悪から)のように使われる、決して穏やかではない語だからです。
この語のルーツは、ラテン語の despicere に遡るとされています。「見下ろす、軽蔑する」という意味の動詞で、de(下へ)と specere(見る)が組み合わさったものです。英語の despise(軽蔑する)や、まさに despite が、同じ根から生まれた兄弟にあたります。
古フランス語を経て英語に入った despit は、当初「軽蔑」「侮辱」を意味していました。そして中英語の時代に、この語の頭が落ちて spite という短い形が生まれます。つまり despite と spite は、もとをたどれば同じ一語だったわけです。
では、なぜ「軽蔑」が「〜にもかかわらず」になったのでしょうか。鍵は in despite of という古い言い回しにあります。これは直訳すれば「〜の軽蔑のうちに」、意訳すれば「〜の侮りをものともせず」となります。誰かがこちらを見下し、妨げようとしている。その敵意の只中にありながら、なお事を成す。
この対抗の構図が定着すると、やがて「敵意」の生々しさは薄れ、単に「不利な条件」を指すようになりました。雨も、経験不足も、欠点のリストも、すべては行く手を阻む何かとして spite の位置に収まります。
言葉は、敵意を失っても構図だけは覚えているのです。
まとめ|ロスが積んだ壁のこちら側
in spite of は、立ちはだかるものをはねのけて進む譲歩の表現です。核にあるのは spite、つまり「こちらを妨げようとする悪意」。それを承知のうえで前へ出る、という対抗の姿勢が言葉の骨格を作っています。
この構文が使えるようになると、条件と結論の関係を一段くっきり示せるようになります。後ろに置くのは名詞か動名詞。although との文構造の違いさえ押さえておけば、書き言葉でも話し言葉でも頼れる一句になるでしょう。
劇中のロスは、自分で積み上げた壁を越えてみせると宣言しました。そこに誠意があったことは伝わってきます。ただ、壁をはねのける身振りは、時として壁の存在を相手に思い知らせてしまう。そんな言葉の重さごと、表現の引き出しに加えてみてください。


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