海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
相手の態度が、どうも普通ではない気がする。けれど自分の受け取り方が正しいのか、確信が持てない。誰かに相談しようとして、言葉を選びあぐねた経験はありませんか。
そんなときに使われる「come onto someone」を、『フレンズ』シーズン2第10話の中盤、オーディションを終えたジョーイが、代理人にある不安を打ち明けるシーンから、一緒に見ていきましょう。
「come onto someone」の意味とニュアンス
come onto someone
意味:言い寄る、露骨に口説きにかかる
come onto someone は、相手に性的あるいは恋愛的な関心をあらわに示して接近することを指します。onto は「〜の上へ」ですから、相手の領域へこちらから乗り出していく動きが、この表現の底にあります。
注意したいのは、この表現がほとんどの場合、迫られる側の視点から語られるという点です。「彼女が言い寄ってきた」とは言えても、「私が言い寄った」と自分から述べる場面はまず出てきません。歓迎していない接近を報告する言葉として使われるため、押しつけがましさや不快感の含みが自然と伴います。
come on to と三語に分けて書かれることもありますが、意味は変わりません。come on(誘いかける)と to(誰に)を組み合わせた形だと捉えておけば、綴りの揺れに迷わずに済みます。
【ここがポイント!】
- 核は「相手の領域へ、こちらから乗り出していく」という一方向の動き
- 迫られた側から語られることがほとんどで、不快感の含みを伴う一言
- 綴りは come onto でも come on to でも意味は変わらないと覚えておくのがコツ
『フレンズ』S02E10のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
長年くすぶっていたジョーイに、ついに大きなオーディションの機会が巡ってきました。手応えもありました。ところが彼には、代理人に打ち明けなければならないことがあります。キャスティング担当のローリーから、ある種の圧力を感じ取っていたのです。言いよどみながら、彼は切り出します。
Joey: Okay, uh, listen, there’s something I wanna talk to you about, the network casting lady–
(あのさ、話したいことがあるんだ。局のキャスティング担当の人のことで)Estelle: Oh, isn’t Lori a doll?
(あら、ローリーって素敵な人でしょう?)Joey: Yeah, yeah, she’s great but…I kinda got the feeling that she was sort of coming onto me.
(ああ、いい人だよ。ただ……なんか彼女、俺に言い寄ってきてる気がしてさ)Estelle: I see. Well, I’m just gonna put in a call here and we’ll find out what’s going on and straighten it out.
(なるほどね。じゃあ一本電話を入れて、どういうことか確かめて片をつけましょう)Friends Season2 Episode10(The One with Russ)
シーン解説と心理考察
ジョーイの切り出し方に、いくつもの緩衝材が挟まっています。I kinda got the feeling(なんとなくそんな気がした)、she was sort of(彼女はどちらかというと)。断定を二重に避けたうえで、ようやく coming onto me という言葉にたどり着きます。
この言いよどみは、告発の重さを計算した結果というより、自分の受け取り方に確信が持てないでいる状態に近いと言えます。相手は仕事の決定権を握る人物です。思い違いであれば、口にした自分の側が失うものは大きい。慎重さが言葉の隅々に表れています。
代理人の反応にも、ひとつの型があります。「素敵な人でしょう」と持ち上げてから、ジョーイの話を聞いて straighten it out(片をつけましょう)と請け合う。その頼もしさが、会話の温度を変えています。そして coming onto me という言葉が置かれた瞬間、ジョーイは自分を動かなかった側に置いています。動いたのは相手であり、自分ではない。その構図が、この一言に重なっています。
『フレンズ』流・覚え方のコツ
onto は「〜の上へ」です。come onto someone は、相手のパーソナルスペースの上に、こちらから乗り出していく動きだと考えてみてください。テーブル越しに身を乗り出し、相手の領域へ入り込んでいく姿が浮かびます。
大事なのは、この動きが常に一方向だという点です。迫る側が動き、迫られる側は動きません。ジョーイが she was coming onto me と言うとき、動いていたのはローリーであり、ジョーイは受け身の位置に立っています。誰が動いて、誰が動かなかったのか。その絵を思い浮かべておけば、この表現がなぜ不快感を帯びるのかも一緒に記憶に残ります。
例文で覚える「come onto someone」
出来事を人に伝えるとき、事実として書き記すとき、自分の解釈を疑うとき。三つの場面で見ていきましょう。
I think he was coming onto me at the party.
(パーティーで彼、私に言い寄ってきてたと思う)
翌日、友人に出来事を報告する場面です。I think を添えると断定を避けられ、確信の度合いをやわらげられます。
He denied coming onto his coworker.
(彼は同僚に言い寄ったことを否定した)
職場での出来事を客観的に記述する一文です。動名詞にすることで、感情を交えない報告文らしい距離が生まれます。
A: It felt like she was coming onto me, but I might have misread it.
B: Trust your gut. You were the one in the room.
(A:言い寄られてる気がしたんだけど、読み違えたのかもしれない)
(B:自分の勘を信じなよ。その場にいたのは君なんだから)
自分の解釈に自信が持てず、誰かに相談する会話です。might have misread(読み違えたかもしれない)を添える言い方は、劇中のジョーイの心理にも重なります。
あわせて覚えたい関連表現
hit on someone
(ナンパする、口説く)
接近そのものを指す表現で、話し手が不快感を抱いているとは限りません。同じ出来事でも come onto someone を選べば警戒心がにじみ、hit on someone を選べば距離を置いた報告になります。語彙の選択に、話し手の受け止め方が表れます。
make a pass at someone
(言い寄る、誘いをかける)
一度の具体的な誘いの動作を指します。come onto someone が態度全体を表せるのに対し、こちらは行為の単位が数えられるという違いがあります。
flirt with someone
(思わせぶりな態度を取る)
双方が楽しむ遊びの含みがあり、必ずしも不快とは限りません。come onto someone にある一方的な押しつけの色は、この表現にはありません。
Note|受け身でしか語られない接近
英語には、話し手の立ち位置があらかじめ決まってしまう表現があります。come onto someone は、その典型のひとつです。
試しに、この表現を自分が主語になる形で言ってみるとどうなるでしょうか。I came onto her(私は彼女に言い寄った)。文法的には成立しますが、実際にこの形で語られる場面はほとんどありません。使われるのは決まって she came onto me、he was coming onto me という形、つまり迫られた側からの報告です。日本語の「言い寄る」には、こうした縛りはありません。「私は彼女に言い寄った」も「彼女が私に言い寄ってきた」も、同じように成立します。
この非対称性は、この表現が本質的に「望まない接近の報告」として機能していることを示しています。歓迎している接近であれば、人は flirt や hit on といった別の言葉を選びます。come onto someone を選んだ時点で、話し手はすでに「自分は動いていない」「求めていない」という立場を表明しているわけです。言葉が事実を描写するだけでなく、話し手の位置まで指定してしまう例だと言えます。
ジョーイが she was coming onto me と口にするとき、彼は自分を動かなかった側に置いています。それは事実の報告であると同時に、自分に非がないという主張でもあります。言いよどみながらも、彼はこの言葉を選びました。
選ばれた言葉は、話し手がどこに立っているかを語ります。
まとめ|ジョーイが選んだ言葉の位置
come onto someone は、相手が自分の領域へ乗り出してきたことを述べる表現です。動いたのは相手であり、自分ではない。その構図が言葉そのものに組み込まれているため、話し手は使った瞬間に受け身の位置へ立ちます。
この非対称性を知っていると、英語の会話で誰かがこの表現を使ったとき、その人がどんな立場から話しているのかが見えてきます。単に「言い寄られた」という事実だけでなく、話し手がそれを歓迎していないことまで、言葉が伝えているからです。
言葉が話し手の位置を語ることのある一例として、表現の引き出しに加えてみてください。


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