海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
車の中で盛り上がっていた話が、ふとした一言をきっかけに気まずい沈黙に変わってしまう、そんな瞬間がドラマにはときどきあります。相手を思っての一言が、かえって強い反発を招いてしまうことも珍しくありません。
『フレンズ』シーズン5第22話の中盤、ヴェガスへ向かう車内で、映画の主演オファーに浮かれるジョーイに対し、チャンドラーが心配からかける「get one’s hopes up」という一言から、一緒に見ていきましょう。
「get one’s hopes up」の意味とニュアンス
get one’s hopes up
意味:期待を高める、望みをかける
get one’s hopes up は「期待や希望を高めてしまう」という意味の口語表現です。hopes(希望)を up(高く)get(得る、至らせる)という組み立てから、心の中の期待値がぐっと持ち上がっていく様子がそのまま形になっています。
しばしば “don’t get your hopes up too high(あまり期待しすぎないで)” のように、これから起こることに対して過度な期待を持たないよう、あらかじめ釘を刺す場面で使われます。結果が不確かなことについて、後で大きく落胆するのを心配して使われる、思いやりの混じった表現でもあります。
一人称で “I got my hopes up.” と言えば「つい期待してしまった」という後悔混じりの述懐にもなり、文脈次第で忠告にも自省にもなる幅の広さを持っています。同じ一言が、相手への気遣いにも、自分自身への戒めにもなる、そんな懐の深さを持った表現です。
【ここがポイント!】
- 「get one’s hopes up」の核は、期待値が少しずつぐっと持ち上がっていくイメージ
- don’t get your hopes up の形で、相手を思いやる忠告や気遣いとしてよく使われる表現
- 誰の期待について話しているかを one’s の部分で明確に、具体的に示すのがコツ
『フレンズ』S05E22のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
映画の主演が「大きなチャンス」だと信じて疑わないジョーイに対し、チャンドラーは複雑な表情を見せています。車内で交わされていた軽いゲームの延長線上のような会話が、次第にジョーイの映画契約そのものへの疑いへと変わっていきます。契約内容の危うさを知っているだけに、素直に喜べない胸の内が、この一言に表れます。
Joey: Well, you don’t think this is going to be a big break for me?
(じゃあ、これが僕にとっての大きなチャンスにはならないと思ってるってこと?)Chandler: No..
(ああ…)Joey: I don’t believe this.
(信じられないよ。)Chandler: Look, Joe, I just, I just don’t want you to get your hopes up too high, you know?
(なあジョー、僕はただ、お前に過度な期待をさせたくないだけなんだ、わかるだろ?)Joey: What are you talking about? I’m the lead in a movie.
(何言ってるんだよ? 僕は映画の主演なんだぞ。)Chandler: They’re not even paying you. This doesn’t even sound like a real movie.
(ギャラすら出ないんだろ。それって本物の映画とも思えないし。)Friends Season5 Episode22(The One with Joey’s Big Break)
シーン解説と心理考察
「No」という素っ気ない返答から始まる短いやり取りに、チャンドラーの葛藤が凝縮されています。ジョーイの「これが僕にとっての大きなチャンスにはならないと思ってるってこと?」という問いかけに対し、はっきり肯定も否定もできないまま、名前を呼びかけながら本音を切り出す様子には、相手を傷つけたくない気遣いがにじみます。
この一言には、単に水を差したいのではなく、歩合制というほとんど利益にならない契約内容を知っているからこその心配が滲んでいます。しかしジョーイは「僕は映画の主演なんだぞ」と自分の立場に誇りを持っており、チャンドラーの「ギャラすら出ない、本物の映画とも思えない」という現実的な指摘とはすれ違ったままです。
期待を持たせたくないという善意と、それを余計なお世話と受け取ってしまう本人との温度差が、会話の空気を少しずつ張り詰めさせています。善意から出た一言が、かえって相手を追い詰めてしまう構図が見どころと言えます。
『フレンズ』流・覚え方のコツ
get one’s hopes up を覚えるコツは、風船が少しずつ膨らんでいく様子を思い浮かべることです。期待という名の風船が、言葉のたびに少しずつ大きくなっていく、そんなイメージを持つと、hopes を up させるという動きが自然に頭に入ります。
チャンドラーが心配したのも、まさにこの風船が大きくなりすぎることでした。膨らみきった期待が、現実という針に触れたときの落差を思うと、don’t get your hopes up という忠告の優しさが実感を伴って理解できるはずです。風船を膨らませすぎない加減を覚えておくと、自分自身の期待とも上手に付き合えるようになります。
例文で覚える「get one’s hopes up」
面接の結果を待つ場面から友人への忠告まで、get one’s hopes up を、3つの例文で確認していきましょう。
I don’t want to get my hopes up, but this interview went really well.
(あまり期待しすぎたくはないけど、今回の面接はすごく手応えがあった)
面接後の複雑な心境を語る場面です。but のあとに好感触の理由を続けることで、期待と自制のせめぎ合いが伝わります。
The manager told us not to get our hopes up about the budget increase.
(部長は予算増加についてあまり期待しないようにと私たちに言った)
職場での会議に関するビジネス寄りの場面です。tell someone not to get their hopes up の形で、上司からの忠告として自然に使えます。
A: I heard the concert tickets might go on sale early!
B: Don’t get your hopes up. That rumor’s been going around for weeks.
(A:コンサートのチケットが早めに発売されるかもって聞いたよ!)
(B:あまり期待しない方がいいよ。その噂、もう何週間も出回ってるから)
友人同士の会話で、根拠の薄い噂に浮かれる相手をたしなめる場面です。
あわせて覚えたい関連表現
set expectations
(期待値を設定する、あらかじめ基準を伝える)
主にビジネスの場面で使われるやや硬い言い方です。get one’s hopes up が感情の高まりそのものを表すのに対し、set expectations は事前に基準をすり合わせておく、より実務的なニュアンスを持ちます。
build up someone’s hopes
(誰かの期待を膨らませる)
get one’s hopes up とほぼ同じ意味ですが、build up には「徐々に積み上げていく」という時間の経過が加わり、期待が少しずつ大きくなっていく過程により焦点が当たります。
temper one’s expectations
(期待をほどほどに抑える)
get one’s hopes up の反対に近い表現です。temper には「和らげる、調整する」という意味があり、高まりすぎた期待を落ち着かせるときに使われます。
Note|期待をコントロールする、という感覚
get one’s hopes up や don’t get your hopes up というフレーズが英語の日常会話にこれほど頻繁に登場する背景には、「期待は自分でコントロールするものだ」という感覚があります。日本語で「期待しないでね」と言うとき、それはどちらかというと結果を予防線として伝える言葉ですが、英語の don’t get your hopes up には、期待という感情そのものを自分の意思で調節できるという前提が透けて見えます。
この感覚は、失望を最小限に抑えるための一種の自己防衛としても機能します。結果が出る前から期待値を意図的に低く保っておけば、たとえ結果が悪くても心のダメージは小さく、逆に良い結果であれば嬉しさは想定以上になる、という考え方です。チャンドラーがジョーイにかけた一言も、まさにこの防衛的な優しさから出たものでした。歩合制というほとんど利益にならない契約を知っていたからこそ、期待という感情そのものを事前に抑えておいてほしかったのです。
もっとも、期待とは本来コントロールしきれるものではありません。ジョーイが「僕は映画の主演なんだぞ」と誇らしげに言い返したように、当人にとっては配慮ではなく水を差す言葉として響いてしまうこともあります。期待を制御しようとする側の善意と、制御されたくない側の高揚感、そのせめぎ合いこそが、このフレーズが繰り返し登場する理由なのかもしれません。
期待という感情に、あらかじめ手綱をかけておくという発想。get one’s hopes up の背後には、そんな英語圏らしい心構えが見え隠れしています。
まとめ|期待させすぎない優しさを、どう伝えるか
get one’s hopes up は、期待や希望が高まっていく様子を表す表現です。don’t get your hopes up の形で使えば、相手を思いやりながら、あらかじめ期待値を調整する優しい忠告になります。
結果が不確かな出来事について、相手が浮かれすぎているときにも、自分自身が期待しすぎていると感じるときにも、この一言があれば気持ちを言葉にできます。
チャンドラーの心配が、ジョーイにはうまく伝わりませんでした。相手を思う気遣いほど、伝え方ひとつで受け取られ方が変わってしまうものなのかもしれません。期待を高めすぎないようにという優しさを、どんな言葉で届けるか。そのさじ加減を考えさせられる場面でもあります。


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