海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
大きなつまずきのあとで、「でも自分はゼロからじゃない」と、あえて胸を張ってみせたくなる瞬間はありませんか。
そんなときにぴったりの「start from square one」を、『フレンズ』シーズン2第19話の序盤、仕事を失ったばかりなのに妙に上機嫌なジョーイが、カフェで強がってみせるシーンから、一緒に見ていきましょう。
「start from square one」の意味とニュアンス
start from square one
意味:振り出しから始める、ゼロからやり直す
進めてきたはずの物事が白紙に戻り、いちばん最初の地点からやり直さなければならない状況を表します。すごろくのようなボードゲームで、コマを進めてきたのにマスの指示で「1番(square one)」まで戻される、あの感覚が語源のイメージです。
ただ「最初から」というだけでなく、そこには積み上げてきた労力が無に帰したという徒労感がにじみます。だからこそ、この表現はしばしば失敗やトラブルの文脈で使われます。
back at square one、back to square one と、back を添えた形もよく耳にします。いずれも「振り出しに戻ってしまった」という後退の含みを持ち、意味に大きな違いはありません。
【ここがポイント!】
- 核はすごろくの「1マス目に戻される」あの徒労感のイメージ
- 単なる「最初から」ではなく、労力が無に帰した後退の温度を帯びる表現
- 否定形にすると「まだゼロじゃない」という自己肯定の一言に変わるのがコツ
『フレンズ』S02E19のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
ドラマの役を降板し、収入源を失ったばかりのジョーイが、なぜか派手な新しい服を着てカフェに現れます。チャンドラーの皮肉をかわしながら、ジョーイは自分がまだ「ゼロ」ではないのだと、実績を持ち出して強がってみせます。
Rachel: Well, look at you, finally got that time machine workin’ huh?
(あら、やっとタイムマシンが動いたのね)Joey: Fine, make fun. I think it’s jaunty.
(いいよ、笑えよ。俺はしゃれてると思うけどな)Monica: Wow, for a guy who’s recently lost his job, you’re in an awfully good mood.
(仕事をなくしたばっかりの人にしては、えらく上機嫌じゃない)Joey: Hey, I’ll be alright. I mean, it’s not like I’m starting from square one. I was Dr. Drake Ramoray on “Days of Our Lives.”
(なあ、俺なら大丈夫さ。別に振り出しから始めるわけじゃないんだから。俺は『愛の病院日誌』のドクター・ドレイク・ラモレーだったんだぜ)Friends Season2 Episode19(The One Where Eddie Won’t Go)
シーン解説と心理考察
ジョーイの上機嫌は、不安の裏返しとして描かれています。starting from square one をわざわざ否定形にして口にするのは、周りに言い聞かせているようでいて、その実、自分に言い聞かせているからだと読み取れます。ドレイク・ラモレーという肩書きにすがるように、彼は「自分はゼロじゃない」と繰り返します。
けれども観客は知っています。実際には彼はこの後、二行だけの端役オーディションを紹介され、そのプライドは少しずつ揺らいでいきます。派手なコートも、強気な口ぶりも、崩れかけた足元を隠すための虚勢に見えてくる。
強がりの入り口にこの一言が置かれているところに、ジョーイの人間くささが表れていると言えます。
『フレンズ』流・覚え方のコツ
すごろくの盤面を思い浮かべてみてください。コマを何マスも進めてきたのに、止まったマスの指示で「1番(square one)に戻る」。あの一瞬の脱力感が、この表現の核心です。
ジョーイは服を新調して「前に進んだ」つもりでいますが、周りから見れば彼はまさに square one の手前で足踏みしています。派手なコートを着たコマが、盤面の1マス目でポーズを決めている絵を思い描いてみてください。強がりと現実のギャップごと、この表現が記憶に残るはずです。
例文で覚える「start from square one」
start from square one は、計画や人生の「やり直し」を語るときに活躍します。フォーマル度の異なる3つの場面で見ていきましょう。
If this proposal gets rejected, we’ll have to start from square one.
(この企画が却下されたら、また振り出しから始めることになる)
会議で企画の再検討を迫られる場面です。「やり直し」を淡々と述べる、最も基本的な使い方になります。
After the breakup, she felt like she was starting from square one.
(別れたあと、彼女はまた一からやり直す気分だった)
恋愛や人生の再出発を語る場面です。仕事だけでなく、人間関係の仕切り直しにも自然に使えます。
A: Don’t worry, you’re not starting from square one — you already know the basics.
B: You’re right. I guess I’ve come further than I thought.
(A:心配ないよ、ゼロからじゃない。基礎はもう身についてるんだから)
(B:そうだね。思ってたより前に進んでたのかも)
落ち込む相手を励ます会話です。劇中のジョーイと同じ否定形で、「まだ振り出しじゃない」と背中を押す使い方です。
あわせて覚えたい関連表現
back to the drawing board
(計画を練り直す、白紙に戻して考え直す)
square one が「出発点そのものに戻る」のに対し、こちらは「設計図の段階に戻す」表現です。計画やアイデアの練り直しに焦点があります。
from scratch
(一から、ゼロから)
何もない状態から作り上げる、前向きな出発を指すことが多い表現です。square one が持つ「戻ってしまった」という後退のニュアンスはありません。
start over
(やり直す、最初からやる)
最も汎用的で中立的な言い方です。square one のような盤面の比喩の含みはなく、単に「もう一度始める」ことを表します。
Note|否定形で使う「まだ振り出しじゃない」
ジョーイの台詞が印象的なのは、start from square one を肯定形ではなく、否定形で使っている点です。it’s not like I’m starting from square one。この「〜じゃない」という形が、この表現に独特の働きを与えています。
not starting from square one は、実績や経験を持つ人が、自分を鼓舞するときの言い回しに近いものです。ゼロではない、積み上げてきたものがある。そう宣言することで、話し手は自分の立ち位置を再確認します。就職や転職、再挑戦の場面で、英語圏の会話にはこの否定形がしばしば現れます。面接で You won’t be starting from square one here と言われれば、「これまでの経験を活かせますよ」という励ましになります。落ち込む相手に You’re not starting from square one と声をかければ、その人の積み重ねを認める言葉になります。肯定形が「戻ってしまった」という後退を語るのに対し、否定形は「まだ持っている」という前進の足場を語るわけです。
ジョーイの場合、その否定形は少し空回りしています。ドレイク・ラモレーという実績を持ち出しても、現実の仕事はなかなか見つからない。それでも、彼が square one を否定したこと自体に、前を向こうとする意志が表れていると読み取れます。
否定の形が、ときに前を向く力になることがあります。
まとめ|ジョーイが振り出しを否定した理由
start from square one は、単なる「最初から」ではありません。積み上げてきたものが白紙に戻る、あの徒労感を含んだ「振り出しに戻る」を表す表現です。back to square one と対にして覚えれば、後退のニュアンスまでつかめます。
そしてこの表現は、否定形にすると意味の向きが反転します。「まだ振り出しじゃない」と口にするとき、話し手は自分の積み重ねを確かめています。ジョーイの強がりも、その足場を確かめる一言だったのでしょう。
やり直しを語りたくなったとき、あるいは誰かの積み重ねを認めたくなったとき。この表現を、会話のレパートリーに加えてみてください。


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