海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
規則どおりに判断しただけなのに、後になって「あの決め方でよかったのだろうか」と何度も蒸し返してしまう。誰かに責められたわけでもないのに気持ちが沈む、そんな夜を過ごした経験はありませんか。
そんなときにぴったりの「beat oneself up」を、『メンタリスト』シーズン2第13話の序盤、部下の処遇を決めた直後のリズボンに、ジェーンが雨の中で声をかけるシーンから、一緒に見ていきましょう。
「beat oneself up」の意味とニュアンス
beat oneself up
意味:自分を責める
beat は「殴る」「叩く」を表す動詞です。その対象が oneself、つまり自分自身に向かうことで、済んだことを何度も思い返しては自分に非があったと責め立てる状態を表します。誰にも殴られていないのに、本人の中だけで痛みが続いている。そんな状態を、身体的な動作にたとえた言い方です。
責める中身は、判断のまずさでも、言いそびれた一言でも、間に合わなかった連絡でも構いません。共通しているのは、すでに終わったことを対象にしている点です。これから起きることへの不安ではなく、過ぎたことを蒸し返す方向に向かうため、周りから見ると「もうそのくらいで」と止めたくなります。
実際、この表現は本人が使うよりも、止める側が使う場面のほうが多く見られます。Don’t beat yourself up. という形が定型として定着しており、落ち込んでいる相手にかける決まり文句になっています。責める理由をつなぐときは、about または over を続けて「何について」を示します。
【ここがポイント!】
- 核にあるのは「自分で自分を殴る」という、行き場のない痛みのイメージ
- 責める対象は必ず過去の出来事。これからの不安には使わない一言
- Don’t beat yourself up. と否定形で使うと、そのまま慰めの言葉になるのがコツ
『メンタリスト』S02E13のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
チーム内の交際は規則違反にあたるため、リズボンはリグスビーとヴァン・ペルトの関係を上層部に報告すると二人に告げます。どちらかが異動になると分かったうえでの決断でした。その直後、事件の関係者を訪ねるために雨の集合住宅を歩く二人。ジェーンは事件の話をせず、いきなりリズボンの内側から切り出します。
Jane: I understand your position. There’s no need to beat yourself up about it.
(君の立場は分かってる。そこまで自分を責めることはない。)Lisbon: What are you talking about?
(何の話?)Jane: Well, that you feel bad about Rigsby and Van Pelt.
(リグスビーとヴァン・ペルトのことで、後ろめたく思ってるだろう。)Lisbon: No, I don’t.
(思ってないわ。)Jane: Well, you can’t help wondering if there’s a hint of jealousy and resentment in your decision.
(いや、あの決断に嫉妬と反感が少し混じってたんじゃないかって、考えずにはいられないはずだ。)The Mentalist Season2 Episode13 (Redline)
シーン解説と心理考察
ジェーンが切り出すのは事件の話ではなく、リズボン自身の話です。雨の中を並んで歩きながら、相手が何を抱えているかを先に言い当ててしまう。この順序の逆転が、二人の関係をよく表しています。
注目したいのは、ジェーンが慰めの形を選んでいる点です。「責めなくていい」という言葉は、裏を返せば、リズボンが自分を責めているという断定でもあります。否定から入る余地を与えられないまま、リズボンは「何の話?」と返すしかありません。そして No, I don’t. と否定した直後に、嫉妬と反感という二つの言葉を置かれます。
リズボンにとって、この決断は規則に沿った正しいものでした。それでも部下の人生を左右する判断を下した後ろめたさは残ります。ジェーンはその後ろめたさを慰めるふりをして表に引き出し、さらに一段深いところにある感情まで名指ししていきます。慰めと観察が同時に進む、このシリーズらしいやり取りが見どころです。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
自分で自分をポカポカ殴っている姿を思い浮かべてみましょう。拳を振り上げているのも自分、それを受けているのも自分。外から見れば奇妙な光景ですが、後悔しているときの頭の中はまさにこの状態です。誰も手を出していないのに、本人だけが痛い。
雨の中を歩くリズボンの表情にも、その見えない拳の跡が出ていました。だからジェーンは「そこまで自分を殴らなくていい」と声をかけたわけです。この場面ごと覚えておくと、落ち込んでいる誰かに向けて使う言葉として、自然に口から出てくるようになります。
例文で覚える「beat oneself up」
責める理由は about か over でつなぎます。止める側と、打ち明ける側の両方を見てみましょう。
Don’t beat yourself up over one bad presentation.
(プレゼンが一度うまくいかなかったくらいで、自分を責めないで。)
会議室を出た同僚が、うつむいたまま資料を抱えている場面です。over のあとに出来事を置くと、その一件に範囲を区切れます。
I kept beating myself up about the way I handled it.
(あの対応の仕方をずっと引きずって、自分を責め続けていました。)
昔の判断について友人に打ち明ける場面です。keep と組み合わせると、長く続いた状態だと伝わります。
A: You’ve been quiet all evening. Still thinking about the meeting?
B: Yeah. I know it’s over, but I keep beating myself up about it.
(A:今夜ずっと静かだね。まだ会議のこと考えてる?)
(B:うん。終わったことなのは分かってるんだけど、どうしても自分を責めちゃって。)
様子の変化に気づいて声をかける、親しい間柄の会話です。I know it’s over を前に置くと、頭では分かっているのに止められない矛盾が伝わります。
あわせて覚えたい関連表現
kick oneself
(悔しがる、しまったと思う)
同じく自分に向かう動作の表現ですが、こちらは「しまった」と思う一瞬の後悔を指します。beat oneself up が長く続く自責なのに対して、kick oneself は短く終わるのが違いです。
blame oneself
(自分のせいだと思う)
責任の所在が自分にあると認める、落ち着いた言い方です。感情的に痛めつける度合いはなく、beat oneself up より一段冷静な報告に近い響きになります。
dwell on
(くよくよ考え続ける)
過ぎたことを手放せない状態を表します。対象は出来事全般で、自分を責めているとは限らない点が beat oneself up との分かれ目です。
Note|「自分を殴る」が「自分を責める」になるまで
beat up は、もともと人に暴力を振るうことを表す表現でした。その物騒な語が、なぜ「反省しすぎている」という穏やかな場面で使われるようになったのでしょうか。
beat という動詞は古くから「叩く」「打つ」の意味を持ち、そこに up が加わることで、相手を徹底的に痛めつけるという方向が加わりました。この up は、動作が行き着くところまで進む感覚を添える働きをしています。eat up が「食べ切る」、use up が「使い切る」になるのと同じ仲間で、beat up は手加減なしに殴る、という組み合わせです。
この表現の対象を自分自身に置き換えた用法は、20世紀後半のアメリカ英語で広まったとされています。心の動きを身体の動作にたとえる言い回しが、日常会話の中に次々と入ってきた時期と重なっており、beat oneself up もその流れの中で定着していきました。英語には、自分に向かう動作で心の状態を語る言い方が他にもあります。悔しさを表す kick oneself、気を引き締める pull oneself together。どれも、自分の身体を自分で扱うという形を借りて、外からは見えない動きを描いています。
興味深いのは、この表現が定型としては否定形で使われる点です。Don’t beat yourself up. という形が慰めの決まり文句になったことで、暴力を表していた語が、むしろ暴力を止めるための言葉として働くようになりました。
殴るという直接的な動作が、心の内側を語る言葉に変わる。その道筋ごと記憶に残しておきたい表現です。
まとめ|ジェーンが差し出した逃げ道
beat oneself up は、誰にも責められていないのに自分だけが痛みを引き受けている状態を、殴るという動作で言い表す表現です。過ぎたことを何度も蒸し返してしまう、あの止まらない感覚がそのまま一語に収まっています。
この言葉を知っていると、落ち込んでいる相手に「気にしないで」以上のことが言えるようになります。何を気にしているのかを分かったうえで、その手を止めさせる。Don’t beat yourself up. の一言には、そこまでの含みがあります。
雨の中でジェーンがリズボンに差し出したのも、まさにその逃げ道でした。誰かの拳を止めたい場面が浮かんだら、表現の引き出しから取り出してみてください。


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