海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
身内のことを外から悪く言われて、理屈で反論する前に「そんなわけがあるか」と声が出てしまった経験はありませんか。相手の言い分を一つずつ検討するより先に、まるごと押し返してしまう瞬間です。
そんなときに使われる「in a pig’s eye」を、『メンタリスト』シーズン5第22話の序盤、旅回りの一座の宿営地でジェーンとリズボンが被害者の伯父ピートから話を聞くシーンから、一緒に見ていきましょう。
「in a pig’s eye」の意味とニュアンス
in a pig’s eye
意味:冗談じゃない、そんなわけがあるか
相手の言ったことを、理由を挙げずにまるごと押し返す口語表現です。no way や that’s not true が中身を否定するのに対して、in a pig’s eye は前提ごと退けるような響きを持ちます。そのため、議論を始める合図というより、議論を打ち切る一言として使われます。
アメリカ英語で古くから使われてきた言い方で、my eye という否定表現に pig を差し込んで強めた形だと説明されることが多いものの、由来を確定させる資料は多くありません。イギリス英語には in a pig’s ear という近い形も残っています。
現在では年配の話者や、くだけた場での使用に偏ります。単独で言い切ることもできますし、後ろに主語と動詞を続けて、何を否定しているのかを示すこともできます。
【ここがポイント!】
- 核にあるのは「そんなものが見えてたまるか」という一言での押し返し
- 理由を並べない分、反論よりも拒絶に近く響く表現
- 古風で場を選ぶので、目上や公の場では別の言い方に置き換えるのがコツ
『メンタリスト』S05E22のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
殺害されたアイリーンの事件を追うジェーンとリズボンは、彼女の夫ロディを探して旅回りの一座の宿営地を訪ねます。応対したのは、ロディの伯父にあたるピート。夫婦仲を尋ねられたピートは、金銭面では苦しかったが諍いは大したことがなかったと答えます。そこへリズボンが、行政に残された記録を持ち出したところで、ピートの口調が変わります。
Pete: We don’t know. They’d been having a hard time financially. And they’re both Leos. That can cause arguments, but nothing serious.
(さあな。金では苦労してたよ。それに二人とも獅子座だ。口論くらいはあるが、大したことじゃない)Lisbon: Caitlyn’s social worker had mentioned abuse and violence.
(ケイトリンのソーシャルワーカーは、虐待と暴力があったと言っていました)Pete: In a pig’s eye! Social workers, eh? Last month, Roddy and Eileen had a bit of a go, and the cops came and they made a big deal of nothing, and they called in child welfare. It was a bunch of nonsense.
(とんでもない! ソーシャルワーカーってのはな。先月、ロディとアイリーンがちょっとやり合った。それで警察が来て、何でもないことを大げさにして、児童福祉まで呼んだんだ。全部ばかげた話さ)The Mentalist Season5 Episode22 (Red John’s Rules)
シーン解説と心理考察
ピートにとって、児童福祉の記録は事実の記載である以前に、身内の暮らしを外の役所に値踏みされた印として響いています。だからこそ、記録の中身を一つずつ否定するのではなく、記録そのものを一言で払いのける形をとっています。
注目したいのは、その後の話し方の順序です。まず否定を置き、それから「先月ちょっとやり合った」「警察が来た」と、むしろ不利になりかねない事実を自分から並べていきます。隠すために出しているのではなく、大したことではないと言い切るための材料として並べているのが表れています。
否定を先に置いてしまえば、あとに続く事実はすべてその枠の中で語られることになります。in a pig’s eye という一言が、会話の枠組みごと引き寄せる働きをしているのが見どころです。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
豚の目は、顔の大きさに対して小さく、まぶたの肉に半分埋もれています。その「ろくに見えていない目」を思い浮かべると、「そんなものが見えてたまるか」という否定の絵につながります。
劇中の場面と重ねるなら、宿営地のトレーラーの前で、役所の書類を持ち出された年長の男が顔をしかめて短く吐き捨てる、という一枚の絵になります。書類・役所・よそ者という組み合わせと、この古い言い回しはセットで記憶に残りやすいはずです。
音の面でも、pig の g で息が一度止まり、eye で外へ吐き出されます。詰まってから放つこのリズムは、言い返すときの息づかいとそのまま重なります。
例文で覚える「in a pig’s eye」
短く言い切る形が基本で、前後に何を置くかで印象が変わります。使い方の幅を3つの例文で見ていきましょう。
He says he paid for the whole thing himself. In a pig’s eye.
(全部自腹で払ったって言ってるよ。冗談じゃない)
友人の武勇伝を聞き流すときの一言です。前の文で相手の主張を引いてから短く否定を置くのが、いちばん自然な形になります。
They told us the delay was nobody’s fault. In a pig’s eye.
(遅れは誰のせいでもないと言われた。よく言うよ)
社内の説明に納得できず、同僚とこぼす場面です。矛先が特定の個人ではなく、説明そのものや建前に向いているため、名指しを避けたまま不信を示せます。
A: He says he’s turned things around.
B: In a pig’s eye he has.
(A:彼はもう立て直したと言ってるよ)
(B:立て直したもんか)
相手の評価にまったく同意できないときのやり取りです。後ろに he has を足すと、何を否定しているのかがはっきりして、切り返しの輪郭が出ます。
あわせて覚えたい関連表現
my foot
(〜なもんか)
直前に相手の言葉を置いて「Innocent, my foot.」のように使います。in a pig’s eye が単独で立つのに対して、こちらは必ず何かの後ろに付く点が違います。
my eye
(嘘つけ)
同じ「目」を使う否定表現で、より短く古風です。in a pig’s eye はここに pig が加わることで、勢いと砕けた調子がひと目盛り上がります。
like hell
(とんでもない)
同じく強い否定ですが、hell が入る分だけ乱暴で場を選びます。in a pig’s eye は古めかしさがある分、同じ強さでも当たりがやわらぐ違いがあります。
Note|19世紀の記録に残る、強い否定の一言
in a pig’s eye は、なぜ pig なのでしょうか。意味ははっきりしている一方で、豚の目が選ばれた理由は確定していません。
文献上では、1840年代の米墨戦争を記したジェイコブ・オズワンデルの日記に、強い否定や不信を表す用例が確認されています。OED系の資料では in a pig’s ear や、より粗野な語を使う異形も併記されていますが、my eye から直接発展したと断定できる証拠はありません。豚の目が小さいこととの関連など複数の説があるものの、由来は未確定として扱うのが安全です。
確かなのは、in a pig’s eye が単なる not ではなく、相手の主張をあざけるように強く退ける言い方だということです。劇中でピートがこの形を選んだのも、記録を否定するだけでなく、記録を持ち出してきた側ごと押し返す強さが必要だったからだと読み取れます。
短い否定の一言にも、長い年月をかけて重ねられた強調の跡が残っています。
まとめ|ピートの一言に残っているもの
in a pig’s eye は、相手の言い分を検討する前に、まるごと押し返してしまう一言です。理由を並べないぶん、そこには話し手の立場と気質がそのまま出ます。
会話の中でこの表現に出会ったときは、否定の内容よりも、その人が何を守ろうとしているのかに目を向けると、やり取りの温度が読み取りやすくなります。使う側に回るなら、相手と場を選ぶ表現だという前提が付いてまわる言い方と言えます。
身内を外から値踏みされたときの、理屈より先に出る短い否定。そういう場面のための一言として、表現の引き出しに加えてみてください。


コメント