海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
腹が立っても、笑いたくなっても、涙が出そうになっても、ふだんはぐっと抑えているものです。その抑えが効かなくなる瞬間に、ぴったりの表現があります。
そんな瞬間を表す「lose it」を、『モダンファミリー』シーズン10第15話の中盤、途中で切れた映像を振り返るマニーの一言から、一緒に見ていきましょう。
「lose it」の意味とニュアンス
lose it
意味:我を忘れる、キレる、感情を抑えきれなくなる
lose itは、それまで保っていた落ち着きや自制心が崩れて、感情をコントロールできなくなる状態を表す口語表現です。loseは「失う」、itは特定の物を指さない「それ」で、「保っていた抑え」のような漠然としたものを受けています。
見出しの形はlose itですが、劇中ではlostの形で出てきます。right before I really lost it(本当に我を忘れる直前)のように、過去の出来事として語るために、loseが過去形のlostになっています。
組み合わせのパターンは、「直前」や「もう少し」を表す語です。right before I lost it(我を忘れる直前に)、almost lost it(もう少しで我を忘れるところだった)のように、爆発の手前を語る形がよく合います。reallyを添えるとreally lost itとなり、「本当に」という強調が加わります。
怒りの場面だけでなく、笑いや涙にも使えます。会議中に笑いが止まらなくなったときも、感動して涙があふれたときも、lose itで言い表せます。どの感情が抑えきれなくなったのかは、前後の文脈で決まります。単語そのものは、感情の種類を教えてくれません。
三人称なら、She lost it.のように言い、現在形ならshe loses itとなります。命令の形のDon’t lose it.は、「取り乱さないで」という呼びかけです。
itの中身を探す必要はありません。lose itのitは、前の文に出てきた特定の名詞を受けているわけではなく、「それまで保っていたもの」をぼんやりと指す語です。そのため、The meeting was so long that I almost lost it.のように、itの前に何も出てこなくても、文は自然に読めます。
使う場面は、我慢の限界に達した瞬間です。長い待ち時間に耐えかねたとき、同じ注意を何度も繰り返したとき、感動する場面で胸がいっぱいになったときなど、「もう抑えられない」という局面で顔を出します。
日本語にするときは、怒りの場面なら「キレる」「我を忘れる」、笑いや涙の場面なら「こらえきれなくなる」のように、感情に合わせて言葉を選びます。
【ここがポイント!】
- 「lose it」の核は、保っていた自制心が崩れて、感情を抑えきれなくなること
- 怒りだけでなく、笑いや涙にも使える
- right beforeやalmostと組み合わせて、爆発の手前を語る形がよく合う
『モダンファミリー』S10E15のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
マニーとフィルが、ある動画のことで言い合いをしている場面です。映像が途中で切れたことを幸いだと話すマニーと、動画を投稿したのは自分ではないと言い返すフィル、やがてマニーが謝る流れに注目です。
Manny: Fortunately, it cut off right before I really lost it.
(幸い、あれは僕が本当にキレる直前で切れてた。)Phil: Manny, why would I post a video calling myself a “terrible actor”?
(マニー、なんで俺が自分のことを「ひどい役者」と呼ぶ動画を投稿するんだ?)Manny: Huh. Could’ve been my editor. During a particularly intense creative discussion, I may have slapped him in front of his girlfriend. Phil, I’m sorry. I think the reason I got frustrated is only partly due to your infuriating incompetence.
(ふむ。僕の編集者だったのかもしれない。特に熱のこもった創作上の議論の最中に、彼の恋人の前で彼をひっぱたいてしまったかもしれないから。フィル、悪かった。僕がいらだった理由のうち、君の腹立たしいほどの力不足のせいなのは、一部だけだと思う。)Phil: Was that so hard?
(ほら、そんなに難しいことだったか?)Modern Family Season10 Episode15 (SuperShowerBabyBowl)
シーン解説と心理考察
マニーのFortunately, it cut off right before I really lost it.は、「あれが、僕が本当にキレる直前で切れていてよかった」という意味です。itは、途中で切れた映像を指しています。Fortunatelyという前置きから、映像が切れたことをマニーが好都合だと受け止めていることが分かります。reallyが付いているので、「もう少しで本当に我を忘れるところだった」という強さが加わっています。
動画の投稿をめぐって、フィルはManny, why would I post a video calling myself a “terrible actor”?と言い返します。why would I 〜は、「なぜ俺が〜するというのか」という反語の形で、自分が投稿するはずがないと否定しています。発言はマニーの名前を呼ぶところから始まっています。
マニーはここで、Huh. Could’ve been my editor.と、別の可能性を挙げます。投稿したのは編集者かもしれない、という見方です。そのうえでPhil, I’m sorry.と謝りますが、その直後のI think the reason I got frustrated is only partly due to your infuriating incompetence.で、謝りの中にフィルの力不足を持ち込んでいます。only partlyは「一部にすぎない」という意味で、いらだちの原因がフィルだけではないと言いながら、一部はフィルのせいだと残しているのです。
謝罪を受けたフィルは、Was that so hard?と返します。「ほら、そんなに難しいことだったか?」と、マニーが謝ったことを受け止める一言です。感情を抑えきれなかったことを認めながらも、言い訳の混じるマニーの言い回しが、lost itという表現と、そのあとのやり取りに表れています。
『モダンファミリー』流・覚え方のコツ
心の中に、感情を支えている1本のひもがあると考えてみましょう。そのひもを手の中で必死に握っているあいだは、怒りも笑いも涙も、おとなしく収まっています。ひもが手から離れて(lose)しまうと、抑えられていたものが一気にあふれ出します。この「手から離れてしまう」感じが、lose itの核にある感覚です。
マニーのreally lost itは、ひもが手から離れる寸前を言い表しています。
例文で覚える「lose it」
lose itは、怒りだけでなく、笑いや疲れの限界にも使えます。日常、会議、往復会話と、感情の種類が違う3つの例文を見ていきましょう。
I almost lost it when he said that.
(彼がそう言ったとき、もう少しでキレるところでした。)
怒りをこらえた出来事を話す場面です。almostを添えて、爆発の手前でこらえたことを伝えています。whenのあとに原因となった出来事を置くと、何がきっかけで限界に近づいたのかも一緒に言えます。
She lost it and started laughing in the middle of the meeting.
(彼女は会議の最中に我慢できなくなって、笑い出してしまいました。)
笑いをこらえきれなかった場面です。lost itが怒りではなく、笑いに使われている例です。and started laughingと続けているので、抑えが効かなくなった結果として何が起きたのかが、はっきり分かります。
A: You look exhausted.
B: One more email like that and I’ll lose it.
(A:ひどく疲れているみたいだね。)
(B:あんなメールがもう1通来たら、本当にキレそう。)
仕事の疲れを打ち明ける会話です。〜 and I’ll lose itは、「〜したら我を忘れてしまう」という限界の手前を言う形です。One more 〜は「もう1つ〜が来たら」という言い方で、あと一押しで限界を超える状態を伝えられます。
あわせて覚えたい関連表現
lose one’s temper
(かんしゃくを起こす、腹を立てて我を忘れる)
lose one’s temperは、怒りに限った言い方です。lose itは、怒りのほかに、笑い、涙、パニックなども含みます。
lose one’s cool
(冷静さを失う、取り乱す)
lose one’s coolは、落ち着きや冷静さを失うことに焦点があります。lose itは、感情の抑えそのものが効かなくなる強い状態を言います。
snap
(ぷつんと切れる、突然キレる)
snapは、我慢の糸が突然切れる一瞬の動きを表します。lose itは、そうなった状態全体を指せます。
Note|「キレる」だけでは足りない、lose itの訳し分け
lose itを「キレる」と訳すと、怒りの場面だと読まれやすくなります。ところがlose itは、笑い、涙、パニックにも使えるので、「キレる」だけでは原文の広がりが伝わらない場合があります。
訳し分けの目安は、抑えきれなくなった感情です。怒りなら「キレる」「我を忘れる」、笑いなら「笑いをこらえきれなくなる」、涙なら「涙があふれる」、パニックなら「取り乱す」と、感情に合わせて動詞を替えます。lose it自体は、どの感情なのかを語らず、「抑えが効かなくなった」という出来事だけを語っています。
感情を決めるのは、前後の文脈です。She lost it and started laughing.のように、直後に何が起きたかが続けば、感情が分かります。訳すときも、この文脈の手がかりを拾ってから、訳語を決めるのが確実です。また、I almost lost it.のようにalmostを添える場合は、抑えが効かなくなる手前の状態を表します。
マニーの発言は、「キレる」が合う例です。続く場面でマニーが「いらだった」と話しているので、怒りの感情だと読めます。「本当にキレる直前」と訳しても、原文の感じはそのままです。同じlose itでも、場面ごとに訳語を選ぶ視点を持つと、読み取りがぐっと正確になります。
まとめ|抑えが効かなくなる瞬間を、短い言葉で
lose itは、保っていた自制心が崩れて、感情を抑えきれなくなることを表す口語表現です。怒りだけでなく、笑いや涙にも使え、right beforeやalmostと組み合わせれば、爆発の手前を語れます。
lose one’s temperは怒り、lose one’s coolは冷静さ、snapは一瞬の切れ方と、言い分けを押さえておくと、表現の幅が広がります。感情の種類を限定したいときはlose one’s temperを、限定せずに抑えが効かなくなったと言いたいときはlose itを、と選べます。
マニーはlostという過去形を使って、本当に我を忘れる直前だったと語りました。そのあとフィルに謝りながらも言い訳を挟んでしまうマニーの姿まで、lostの一語から話が続いていきます。


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