海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
話し合いを続けているうちに、相手がふっと口調を変えて、これ以上は専門家を通しますと言い出す。そこで会話の性質が切り替わる瞬間が、仕事でも私生活でも訪れます。
その切り替えを一語で告げる「lawyer up」を、犯罪捜査ドラマ『メンタリスト』シーズン4第16話の中盤、殺人の動機を突きつけられた宗教団体の指導者が取り調べを打ち切るシーンから、一緒に見ていきましょう。
「lawyer up」の意味とニュアンス
lawyer up
意味:弁護士を立てる
名詞の lawyer を動詞として使い、up を添えた口語表現です。up には、その態勢に入る、身構えるという感覚があり、単に弁護士に依頼するというより、法的に守りを固めてこれ以上は自分では話さない、という姿勢まで含みます。
警察の取り調べで容疑者が使うのが典型ですが、場面は法廷ものに限りません。企業間のトラブル、解雇や離婚をめぐる話し合いなど、当事者同士の会話が法的な段階へ移るときに広く使われます。
含みとして覚えておきたいのは、この語がしばしば後ろ暗さの印象と結びつく点です。捜査側が He lawyered up. と言うとき、そこには話を聞き出せなくなったという苛立ちが混じります。一方、助言する側が You should lawyer up. と言えば、相手を守るための忠告になります。
同じ二語が、誰の側から発せられるかで色を変える表現です。
【ここがポイント!】
- 名詞に up を足して「その態勢に入る」を作る、現代口語の組み立てが丸ごと見える一語
- 依頼するだけでなく「これ以上は自分では話さない」という姿勢まで含むのが特徴
- 捜査側が使えば苛立ち、助言する側が使えば気遣い。立場で色が変わるのを読み取るのがコツ
『メンタリスト』S04E16のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
反カルト団体の代表を殺害した容疑で、宗教団体を率いるブレット・スタイルズがCBIに勾留されています。取調室でリズボンが追及を続けますが、スタイルズは正義とは何かという問答で話をそらそうとします。それが通じないと見るや、彼は会話そのものを終わらせにかかります。
Lisbon: We close cases. That’s all that matters to me.
(私たちは事件を解決する。私にとってはそれがすべてよ)Stiles: Oh, I see. So you’re telling me that you love justice more than yourself? Come on. I mean, justice — what is that? It’s just an idea. You are flesh and blood. Why sacrifice the real for the imaginary?
(なるほど。つまり、自分自身より正義のほうが大事だとおっしゃる。まあ考えてごらんなさい。正義とは何です? ただの観念でしょう。あなたは血の通った人間だ。実在するものを、想像上のもののために犠牲にする理由がありますか)Lisbon: I’m not looking for a guru. I’m looking for a murderer.
(教祖を探してるんじゃない。殺人犯を探してるの)Stiles: I didn’t kill anybody. And if you keep insisting that I did, then… gonna have to lawyer up.
(私は誰も殺していない。それでも殺したと言い張るのなら……弁護士を立てさせてもらいますよ)The Mentalist Season4 Episode16 (His Thoughts Were Red Thoughts)
シーン解説と心理考察
スタイルズがここで正義の話を持ち出したのは、リズボンの立っている足場を崩すためだと読み取れます。相手が自分を追及する根拠が正義なら、その正義そのものを観念にすぎないと言ってしまえばいい。教祖として人を説き伏せてきた手つきが、取調室でもそのまま出ている場面です。
ところがリズボンは議論に乗りません。教祖を探しているのではなく殺人犯を探している、という短い返しで、話の枠を捜査に引き戻してしまいます。
説得の余地がないと見た瞬間に、スタイルズは弁護士という言葉を出しました。この一言は防御というより、主導権の取り戻し方として機能しています。答え続けるかぎり不利になる場面で、法的な扉を閉めることで会話そのものを終わらせる。直後の場面でリズボンがチームに He’s lawyered up. と報告すると、同じ表現が今度は捜査側の制約を告げる言葉に変わります。攻めと守りの両方を、たった二語が担っているのが見どころです。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
up には、散らばっていたものを一つにまとめて構えを作る感覚があります。荷物をまとめる、袖をまくる、装備を身につける。lawyer up も同じで、弁護士という守りを自分の周りに引き寄せて態勢を整える動作としてイメージすると、意味が体に入ってきます。
劇中では、この一言のあとに会話がぱたりと止まります。取調室の机の向こうで、余裕の表情のまま短く一言。そして質問を続けられなくなる。この扉が閉まる音ごと覚えてしまうと、単に弁護士を雇うという説明では足りない、話を打ち切るという含みまで一緒に思い出せます。
例文で覚える「lawyer up」
守る側にも、追う側にも使える表現です。立場を変えた三つの例で見ていきましょう。
The moment they mentioned a lawsuit, I decided to lawyer up.
(訴訟という言葉が出た瞬間、弁護士を立てることにした)
取引先とのトラブルが法的な段階に入った場面。話し合いの性質が変わった分岐点を示す使い方です。
If they keep pushing you like this, you should probably lawyer up.
(この調子で押してくるようなら、弁護士を立てたほうがいいと思う)
不当な扱いを受けている友人に助言する場面。相手を守るための忠告として使われ、後ろ暗さの含みはありません。
A: Did you get anything out of him?
B: No. He lawyered up before we even sat down.
(A:何か聞き出せた?)
(B:いや。座る前から弁護士を立てられたよ)
捜査や社内調査の進捗を確認する会話。追う側から見ると、この一語がそのまま行き止まりの報告になります。
あわせて覚えたい関連表現
plead the Fifth
(黙秘権を行使する)
合衆国憲法修正第5条を根拠に、自分に不利な証言を拒む宣言です。lawyer up が代理人を立てるのに対し、こちらは自分で答えを拒みます。沈黙する主体が違うところが分かれ目です。
retain counsel
(弁護人を選任する)
同じ内容を書き言葉で言うときの形です。契約書や社内文書ではこちらが選ばれ、lawyer up は口頭の場面に限られます。
take it to the lawyers
(あとは弁護士に任せる)
当事者同士の話し合いを打ち切り、専門家に引き渡すという流れを描く言い方です。lawyer up より事務的で、対立や後ろ暗さの含みは薄くなります。
Note|弁護士を呼ぶ権利が、日常の一語になるまで
lawyer up がこれほど短い形で通じるのは、その背景にある手続きが、英語圏の視聴者にとって説明不要なほど繰り返し描かれてきたからです。
アメリカでは、身柄を拘束して取り調べを行う際に、黙秘権と弁護人を依頼する権利を告げる運用が定着しています。1960年代の連邦最高裁判決をきっかけに広まったとされるこの告知は、刑事ドラマや映画の定番場面として何十年も再生産されてきました。手錠をかけながら権利を読み上げる、あの一連の台詞です。
繰り返し描かれた結果、弁護士を呼ぶという行為には、単なる依頼を超えた意味が乗るようになりました。取り調べが止まる、供述が取れなくなる、話し合いが交渉から手続きに変わる。その一連の展開が、言葉のほうに折りたたまれていったわけです。だからこそ、二語だけで場面の切り替わりまで伝えられます。
日本語で同じことを言おうとすると、弁護士を立てる、だけでは足りず、これ以上は話さないという意思表示として、といった補足が要ります。制度の描かれ方が言葉の短さを支えている、という関係がここに見えます。
劇中のスタイルズも、権利の説明を受けたわけではありません。それでも二語だけで、取り調べは終わりました。
まとめ|会話の性質が切り替わる瞬間
「lawyer up」は、弁護士に依頼するという事実だけでなく、そこから先は自分では話さないという姿勢までを二語で伝える表現です。名詞に up を足してその態勢に入る、という現代口語の作り方が、そのまま形になっています。
この一語を知っていると、海外ドラマの取調室で何が起きたのかが即座にわかります。同時に、仕事のトラブルが交渉から手続きへ移った、という状況説明も短く済ませられます。長く説明していた場面の転換を、二語で片づけられるわけです。
追い詰められた側が最後に切るカードでもあり、大切な人を守るための助言でもある、そんな一言です。


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