海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
承認する人が増えれば増えるほど、企画がなかなか前に進まなくなる。そういう場面が、どの職場にもあります。
その状況をひとことで片づける「too many cooks in the kitchen」を、『メンタリスト』シーズン4第7話の終盤、生放送のスタジオに現れたジェーンが捜査難航の理由を問われるシーンから、一緒に見ていきましょう。
「too many cooks in the kitchen」の意味とニュアンス
too many cooks in the kitchen
意味:口を出す人間が多すぎて、かえってうまくいかない
狭い台所に料理人が何人も立っている。全員が腕のいい料理人でも、同じ鍋に別々の味付けをすれば、料理は台無しになります。人手が足りないのではなく、決定権が分散していることが問題だ、という指摘がこの表現の中身です。
日本語では「船頭多くして船山に登る」が近い言い方になります。どちらも、指揮する人が多すぎると全体が本来と違う方向へ運ばれてしまう、という構図を共有しています。
使いやすさの理由は、批判の矛先が個人ではなく体制に向くところにあります。誰かの能力を否定するのではなく、関わる人数という構造の話にできる。だから会議でも報道でも角が立ちにくく、承認者の多いプロジェクトや意見のまとまらない共同作業について話すときの定番になっています。台所という身近な場面を借りているぶん、堅い会議の場でも表現が重くなりすぎません。
【ここがポイント!】
- 狭い台所に料理人が何人も立ち、同じ鍋を別々に味付けしている絵が核
- 人手不足ではなく「決定権が散らばっている」ことを問題にする一言
- 個人ではなく体制を名指しできるので、角を立てずに批判できるのが使いどころ
『メンタリスト』S04E07のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
事件は捜査機関のあいだを移り、ジェーンたちはすでに手を引かされています。それでも犯人を動かすため、ジェーンは事件を扱うテレビ番組にサプライズゲストとして出演します。直前まで話していた記者パンザーは、機関から機関へ事件がたらい回しにされていると批判したところでした。司会者の最初の質問に、ジェーンはまずその批判へ同調してみせます。
Karen: In a nutshell, why has the San Joaquin Killer proven so difficult to apprehend?
(端的にうかがいます。なぜサンホアキン・キラーの逮捕はこれほど難しいのでしょう)Jane: Well, James is exactly right. There are too many cooks in the kitchen. But I would also like to add that the San Joaquin Killer is very likely someone that has attached themselves to the investigation somehow.
(ジェームズの言うとおりです。関わっている人間が多すぎる。そのうえで付け加えるなら、サンホアキン・キラーはおそらく、何らかの形で捜査に貼りついている人物です)Karen: That’s interesting. Is there anyone in particular that you’re thinking of?
(興味深いですね。特定の誰かを念頭に置いているのですか)The Mentalist Season4 Episode7 (点滅するレッドランプ)
シーン解説と心理考察
同調から入って、そのまま刃を向ける。二文の運びに、ジェーンの話術が凝縮されています。まず相手の主張を正しいと認め、聞いている側の警戒を解く。そのうえで「捜査に貼りついている人物では」と続ける。賛同と当てこすりが一続きの発言になっているため、切り替わりの瞬間がわかりにくくなっています。
隣に座っている記者にとっては、自分を持ち上げた直後に自分を指す言葉が飛んでくる形です。反論しようとしても、直前に同意されているので取りかかりがありません。この宙づりの構図が、会話の温度を変えています。
台所の比喩が組織の話にそのまま乗るという点も、この場面の見どころです。捜査機関という大きな仕組みの非効率を、料理人と鍋という身近な絵で片づけてしまう。生放送という舞台の上で、難しい話をひとことに畳んで見せる手際が表れています。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
狭い台所に、料理人が5人立っている光景を思い浮かべてみてください。全員が腕はたしかです。それでも一つの鍋に、5人がそれぞれの塩加減で手を入れれば、スープは飲めたものではなくなります。足りないのは腕ではなく、誰が味を決めるのかという一点です。
日本語の「船頭多くして船山に登る」を横に置くと、記憶がさらに定着します。船頭が多いと船が山へ登り、料理人が多いとスープが壊れる。どちらも、指揮者の多さが全体を明後日の方向へ運ぶという同じ絵です。
劇中では、複数の機関を渡り歩いた事件について、ジェーンがこの一言で片づけました。台所の比喩が警察組織の話に乗る瞬間を覚えておくと、組織の話題でこの表現が出てきたときに、すぐ耳が拾えるようになります。
例文で覚える「too many cooks in the kitchen」
体制の話として批判できる、便利な言い回しです。3つの場面で見ていきましょう。
The project stalled because there were too many cooks in the kitchen.
(承認する人が多すぎて、そのプロジェクトは止まってしまいました)
企画が進まない原因を説明する一文です。because 節に置くと、誰かを名指しせずに理由が伝わります。
With five of us cooking dinner, it was a case of too many cooks in the kitchen.
(5人で夕食を作ったので、まさに人が多すぎて逆効果でした)
家族や友人との出来事を話す場面です。文字どおりの台所で使うと、比喩と実際が重なって軽い洒落になります。
A: Should we add the legal team to this review?
B: Let’s not. Too many cooks in the kitchen already.
(A:このレビュー、法務も入れたほうがいい?)
(B:やめておこう。もう関わる人が多すぎる)
体制を決める相談のやり取りです。短く言い切る形にすると、会議での一言としてそのまま収まります。
あわせて覚えたい関連表現
design by committee
(委員会方式で決めた結果、凡庸になること)
こちらは成果物の質が落ちることを指す名詞句です。進行が滞ることまで含む too many cooks in the kitchen のほうが、指す範囲は広くなります。
spoil the broth
(スープを台無しにする)
諺の原型の後半部分で、単独で使うとやや古風に響きます。
the more the merrier
(多ければ多いほど楽しい)
参加者が増えることを歓迎する表現で、評価の向きが正反対です。人数の多さを問題にするか歓迎するかで、この二つは対になります。
Note|Too many cooks spoil the broth. という古い諺
現在よく耳にする too many cooks in the kitchen は、実はもっと古い諺を崩した形です。
原型は Too many cooks spoil the broth.。料理人が多すぎるとスープが台無しになる、という一文で、英語の諺集には16世紀ごろには近い形が見られたと紹介されています。broth は肉や野菜を煮出した薄いスープのことで、当時の家庭料理を思わせる語です。この諺が長く使われるうちに、後半の spoil the broth が省かれ、代わりに場所を示す in the kitchen が添えられる形が広まりました。結果として、諺としての教訓の断定が薄れ、目の前の状況を指す口語表現へと性格が変わっています。同じような省略は英語の諺にしばしば起こります。When in Rome, do as the Romans do. が When in Rome. だけで通じるようになった例や、Speak of the devil, and he shall appear. が Speak of the devil. で止まる例が、その代表として知られています。長い諺のうち、聞けば全体が思い出せる部分だけが残っていくわけです。
この経緯を知っておくと、too many cooks とだけ言われた場合にも意味が取れるようになります。省略された先には、台無しになったスープが控えている。そう思って聞けば、話し手が本当に案じているのは人数ではなく成果物のほうだと読み取れます。
省略されて残るのは、絵が強い部分だけです。
まとめ|台所の比喩で片づけられた捜査
too many cooks in the kitchen は、非効率の原因を人数と決定権の分散に置く表現です。誰かの能力を責めるのではなく、体制の形を指すため、批判の言葉でありながら角が立ちにくくなっています。
会議で体制を提案するとき、企画が止まった理由を説明するとき、この一言があれば個人を名指しせずに済みます。日本語の「船頭多くして船山に登る」と重ねておくと、場面ごとの使い分けもつかみやすくなります。
古い諺の後半が省かれても意味が伝わるのは、台所の絵がそれだけ強いからなのかもしれません。


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