海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
相手のことを思うほど、本当のことが口に出しにくくなる場面があります。
そんな気持ちを表す「have the heart to」を、『モダンファミリー』シーズン10第1話の中盤、ホットドッグを食べる量をめぐるフィルとルークの会話にクレアが口をはさむシーンから、じっくり見ていきましょう。
「have the heart to」の意味とニュアンス
have the heart to
意味:(相手につらいことを)あえてする気になれる、(否定形で)〜する気になれない
have the heart to は、「相手を傷つけると分かっていることを、あえて口にしたり実行したりできる心がある」という意味の表現です。heart は「心」のことで、冷たいことをする非情さや、思い切りのよさまで含めて「それをするだけの心」を指します。
実際の会話では、doesn’t have the heart to tell you(相手に言い出す気になれない)のように否定形で使うと、相手を思いやるあまり言えない気持ちが伝わります。to の後ろには動詞の原形を置き、伝えるのか、断るのか、解雇するのかといった「言いにくい行為」を続けます。
疑問文でも使えます。Who would have the heart to say no? なら、「誰が断る気になれるだろうか」、つまり「誰も断れない」という含みの文になります。否定文でも疑問文でも、「そんなことをする気にはなれない」という思いやりの側に立った言い方になります。
【ここがポイント!】
- have the heart to は、つらいことを「あえてする心がある」という表現
- 否定形にすると、相手を思って「言い出せない、できない」気持ちを表せる
- to の後ろには、tell や say no のような言いにくい行為を置く
『モダンファミリー』S10E01のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
フィルがホットドッグを食べる量が足りないとルークに伝えると、ルークは集中できないと謝ります。そこへクレアが、ルークの気持ちを推し量る一言を差し込み、フィルがそれを否定していきます。クレアの発言の中に have the heart to が出てくる流れを追います。
Phil: Oh. Um Listen. No dad wants to have this talk with his son, but you’re just not eating enough hot dogs.
(ああ。えーと、聞いてくれ。息子とこんな話をしたい父親なんていないが、お前はホットドッグを食べる量が足りないんだ。)Luke: I’m sorry. For some reason, I just I can’t focus.
(ごめん。なぜか、どうしても集中できないんだ。)Claire: I think what Luke is trying to say is, he’s too old for this contest and he doesn’t have the heart to tell you.
(ルークが言いたいのはね、この大会にはもう年を取りすぎてるけど、それを言い出す気になれないんだと思うのよ。)Phil: That’s impossible. I’m an adult. I’m still super into it.
(そんなのありえないだろ。俺は大人だが、今も夢中なんだぞ。)Modern Family Season10 Episode1 (I Love a Parade)
シーン解説と心理考察
クレアの一言は、ルークが言ったことの説明ではなく、ルークの気持ちについての推測です。I think what Luke is trying to say is と前置きして、本人が口にしていない中身を代わりに言葉にしています。ルークが述べたのは、謝罪と「集中できない」という二点だけでした。
クレアが挙げた中身は、「この大会には年を取りすぎている」というものです。そして have the heart to tell you の you は、話を切り出したフィルを指しています。フィルが大会に夢中だと分かっているから、本当のことを伝える気になれない。そんな見立てを、クレアが言葉にしています。
これに対してフィルは、「そんなはずはない」と即座に退けます。理由に挙げたのは、自分は大人でも今も夢中だという点です。年を取りすぎているかどうかを、自分自身を例に否定する論法になっていて、クレアの推測が会話の流れを変えている様子が見えます。
ルークが集中できない本当の理由は、このあと本人の口から別に語られます。クレアの見立ては、あくまで周りが読み取ったルークの気持ちを言葉にしたものでした。
『モダンファミリー』流・覚え方のコツ
期待に満ちた顔でこちらを見ている相手を、前にしている場面を思い浮かべてみましょう。口を開けば相手の顔がくもると分かっている、その一歩手前の瞬間です。
そこで言葉を飲み込む気持ちを、heart(心)という一語に重ねます。「がっかりさせるなんて、そんな心は持てない」と口をつぐむ姿が、have the heart to の否定形が描く情景です。
フィルが大会の話を切り出す場面で、ルークは「集中できない」とだけ答えていました。クレアが読み取ったのは、その答えの奥にある「言い出せない心」です。heart が働いている場面と一緒に覚えておくと、否定形で使ったときの重みも残ります。
例文で覚える「have the heart to」
言いにくいことを言えなかった場面と、言わずにいる人柄を説明する場面で、例文を見てみましょう。
I didn’t have the heart to tell her the restaurant was closed.
(そのレストランが閉まっていたことを、彼女に言い出す気になれなかった。)
相手をがっかりさせたくなくて、本当のことを言えなかった場面です。過去形の didn’t にすると、あとから振り返る語り口になります。
He doesn’t have the heart to fire anyone.
(彼は誰かを解雇するなんて、とてもできない人だ。)
優しすぎる上司の人柄を説明する場面です。現在形の doesn’t を使うと、一度きりの出来事ではなく、その人の性格として伝わります。
A: Did you tell him the truth?
B: No, I just didn’t have the heart to.
(A:彼に本当のことを話した?)
(B:ううん、どうしても言う気になれなくて。)
言えなかった理由を打ち明ける会話です。B の返答のように、to のあとの動詞を省いても、聞き手には何を指すかが通じます。
あわせて覚えたい関連表現
can’t bring oneself to
(どうしても〜する気になれない)
can’t bring myself to は、自分の気持ちが動かないことに焦点があります。have the heart to は、相手を傷つけるだけの非情さがあるかどうかに焦点が置かれます。
have the nerve to
(厚かましくも〜する、〜する度胸がある)
have the nerve to は、度胸や図々しさを指します。have the heart to が思いやりや非情さを軸にするのに対し、まったく別の方向から「あえてする」を表す表現です。
be reluctant to
(〜するのに気が進まない)
be reluctant to は、気が進まないという状態を広く表します。相手を傷つけるのが忍びないという感情が中心の have the heart to に比べて、理由の幅が広い言い方です。
Note|肯定形で「あえてする」、否定形で「する気になれない」を表す have the heart to
日本語では「言い出す気になれない」と否定の形で言う場面でも、英語には「それをするだけの心を持っている」という肯定の組み立てを土台にした表現があります。
have the heart to は、直訳すると「〜するだけの心を持つ」です。つまり、冷たいことを実行できる心があるという意味が基本にあり、そこに否定の not を足すと、日本語の「〜する気になれない」「〜するのは忍びない」にあたる文になります。疑問文の Who would have the heart to turn away a hungry child? なら、「おなかをすかせた子どもを追い返せる人がいるだろうか」という、強い共感を示す文になります。このとき訳文は否定でも疑問でも、思いやりの側に立った内容に落ち着きます。
注意したいのは、肯定文で She had the heart to say it to his face. のように言う場合です。この文は「面と向かって言ってのける心があった」という、あえてやってのけたことを示します。日本語の「〜する気になれない」と対応するのは、否定形や疑問形で使ったときだけです。
劇中のクレアの doesn’t have the heart to tell you は、この否定形です。「相手に言い出す気になれない」と訳せば、日本語の感覚とも重なります。
まとめ|言い出せない気持ちを、heart の一語で言い表す
have the heart to は、つらいことを「あえてする心がある」という意味の表現です。否定形にすれば、相手を思いやるあまり「言い出せない」「できない」という気持ちを一言で伝えられます。
悪い知らせを伝えるとき、断りづらい頼みを断るとき、期待を壊したくないときなど、言いにくいことを言えずにいる場面で出番があります。to の後ろに置く動詞を tell から say no、fire などに変えるだけで、さまざまな場面に対応できる形です。
クレアが口にしたのは、ルークの口から出ていない気持ちを、家族の目線で読み取った一言でした。相手を気づかって言葉を飲み込む、そんな心の動きを英語で伝えたいときの一言です。否定形でも疑問形でも、思いやりの側に立つ表現だと押さえておけば、場面ごとの訳し分けにも迷いません。


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