海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
終わったことだと分かっているのに、どうしても手放せないものが誰にでもあります。
そんな状態に向けて使われるのが「let it go」で、もう忘れる、こだわりを手放す、という意味です。『メンタリスト』シーズン2第2話の中盤、CBIのフロアで、担当を外された件を引きずるジェーンにリグスビーが声をかける場面に登場します。どのように使われているのか、一緒に見ていきましょう。
「let it go」の意味とニュアンス
let it go
意味:もう忘れる、こだわりを手放す、水に流す
let は「〜させておく」、go は「行ってしまう」。握っていたものから手を離して、自分の手の届かないところへ行かせる。それがこの表現の絵です。
対象になるのは、怒り、後悔、悔しさ、勝てない議論など、抱え続けても状況が変わらないものです。注意したいのは、解決したわけでも許したわけでもないという点です。相手が謝っていなくても、納得していなくても使えます。決着ではなく、自分の手から離すという一手だけを指しています。
相手に向けて使うときは、方向が二つに分かれます。もう十分やっただろうという慰めにもなれば、しつこいという苛立ちにもなる。どちらに転ぶかは口調で決まります。
it の部分は入れ替えが利き、let things go、let go of the past のような形にもなります。let go of と of を伴う形も同じくらいよく使われます。
【ここがポイント!】
- 核は「握っていた手を開いて、行かせてやる」という動作
- 解決も納得もしていなくていい。手から離すという一手だけを指す一言
- 慰めにも苛立ちにも転ぶので、口調で方向が決まるのがコツ
『メンタリスト』S02E02のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
CBIのフロア。ジェーンにとって最大の関心事であるレッド・ジョン事件は、この回から別の捜査官ボスコの手に渡っています。資料を見せろと詰め寄って追い返されたばかりのジェーンに、事情を聞きつけたリグスビーが慰めのつもりで声をかけました。ところが二人の話は、最初から少しずれています。
Rigsby: Hey. I heard Bosco cleaned your clock this morning.
(よう。今朝、ボスコにこてんぱんにやられたって聞いたぞ)Jane: Oh, that’s one interpretation.
(へえ、そういう解釈もあるね)Rigsby: I get it. It’s tough to have Red John taken away like that. Bet you’d give a lot to know what they’re saying in Bosco’s office.
(分かるよ。レッド・ジョンをああやって取り上げられるのはきつい。ボスコの部屋で何が話されてるか、知るためなら何でも差し出すんだろ)Jane: Yeah. Yeah, I would.
(ああ。ああ、そうするだろうね)Rigsby: You gotta let it go, man. Forget about the jewelry box. You missed one. So what?
(もう手放せって。宝石箱のことは忘れろ。ひとつ見落としたからって、それがどうした)Jane: Actually, I didn’t. I’m pursuing an independent line of investigation, gonna crack this case in 24 hours.
(いや、見落としてない。僕は独自の線を追ってる。24時間でこの事件を解くよ)The Mentalist Season2 Episode2(The Scarlet Letter)
シーン解説と心理考察
会話が噛み合っていないことに、リグスビー本人は気づいていません。彼が想定しているのは、捜査で一手遅れを取った悔しさです。だから宝石箱のことは忘れろ、と具体的な対象を挙げて慰めにかかります。
ところがジェーンが手放せずにいるのは、そこではありません。直前の Yeah. Yeah, I would. という短い返しが、それを示しています。ボスコの部屋で交わされている会話のためなら何でも差し出す、という指摘を、ジェーンは否定せずに二度うなずいて受け止めました。慰められるべき対象を、自分から一度だけ認めた形になっています。
その直後に let it go が置かれることで、助言が届かないことが逆に際立ちます。手放せと言われた相手が、実は別のものを握っている。しかも握っているものの正体を、言われた側だけが知っている。
答えとして返ってきたのが、24時間で事件を解くという宣言でした。手放すどころか、握る力を強める返事になっています。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
握りしめた手の中に、風船の紐があると考えてみましょう。let it go は、その手をゆっくり開く動作です。
開いたあと、風船は自分の意思とは関係なく空へ上がっていきます。どこへ行くかは決められません。だからこそこの表現は、捨てるでも、解決するでもなく、自分の手の届く範囲から出す、という一手だけを表します。相手が謝っていなくても、納得していなくても使えるのは、そのためです。
紐を握り続けるのにも力が要る、という点も一緒に覚えておくと役に立ちます。手放せない状態とは、力を入れ続けている状態のことです。
劇中のジェーンは、宝石箱ではなく事件そのものを握っていました。リグスビーには紐の先が見えていない。だから手放せという言葉だけが空を切ります。開かない手の絵を思い浮かべておくと、この表現が誰に向けて使われるものなのかまで一緒に残ります。
例文で覚える「let it go」
慰めにも、苛立ちにも、自分自身への言い聞かせにもなる表現です。三つの例文で、その振れ幅を見ていきましょう。
I know the decision didn’t go your way, but let’s let it go and focus on delivery.
(望んだ結論ではなかったのは分かりますが、いったん切り替えて納品に集中しましょう)
議論が終わったあと、チームを前に向かせる場面です。let’s と組み合わせると、自分も同じ側に立つことになり、命令の色が薄まります。
Learning to let things go has made my job a lot easier.
(手放すことを覚えてから、仕事がずいぶん楽になった)
働き方の変化を振り返って話す場面です。it を things に替えると、特定の一件ではなく習慣そのものを指せるようになります。
A: He apologized twice already.
B: I know. I just can’t let it go yet.
(A:彼、もう二回謝ってるよ。)
(B:分かってる。でも、まだ割り切れないんだ。)
友人同士で気持ちの整理を話す会話です。can’t let it go とすると、手放したいのに手放せないという状態を、自分の言葉で説明できます。
あわせて覚えたい関連表現
move on
(次に進む、切り替える)
今回の表現が手を開く一点の動作を指すのに対し、こちらは自分が前へ進んでいく動きを表します。手放したあとの段階、と考えると使い分けやすくなります。
get over it
(乗り越えろ、立ち直れ)
障害物を越えるという絵で、達成の含みがあります。突き放した響きが強いため、慰めとしては使いにくく、相手を選ぶ言い方です。
drop it
(その話はやめて)
感情ではなく、会話そのものを打ち切る言い方です。今回の表現が心の持ちようを扱うのに対し、こちらはその場の話題を止める、短く強い一言になります。
Note|手放す、進む、乗り越える
let it go、move on、get over it。日本語にすると、どれも「もう忘れなよ」のあたりに収まってしまいます。けれど三つは、動いているものが違います。
let it go で動くのは、握られていたものです。手を開けば、あとは勝手にどこかへ行く。自分は同じ場所に立ったままでもかまいません。move on で動くのは、自分自身です。過去はそこに残したまま、こちらが前へ歩き出す。だから時間の経過を含みやすく、He’s moved on. のように状態として語られることが多くなります。get over it で動くのも自分ですが、こちらには越えるべき障害が置かれています。乗り越えたかどうかという結果が問われるぶん、達成できていない相手に投げると、責める響きが出ます。
この違いは、かける言葉としての優しさの順にもそのまま重なります。手を開くだけでいい、と言うのが最も軽い。前に進めば、が次。乗り越えろ、が最も重い。相手が今どの段階にいるかを見誤ると、慰めのつもりが圧力になってしまいます。
劇中のリグスビーが選んだのは、いちばん軽い let it go でした。相手の状態を測りかねているときに選ばれやすい形だとも言えます。
同じ「忘れなよ」でも、誰が動くのかは、言葉が先に決めているようです。
まとめ|開かなかった手のほう
let it go は、握っていたものから手を離して行かせてやる表現でした。解決も納得も条件ではなく、自分の手から出すという一手だけを指します。だからこそ、慰めにも苛立ちにも転びます。
終わった議論を蒸し返しそうになったとき、謝られた後もこだわりが残るとき、あるいは自分に言い聞かせたいとき。この一語があると、割り切るという曖昧な日本語よりも、動作としてはっきり伝えられます。
手放せと言われたジェーンが握っていたのは、宝石箱ではありませんでした。助言が届かない場所にこそ、その人の核心がある。そんな場面の一言として、表現の引き出しに加えてみてください。


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